「家を建てた」
日本人同士の会話でこんな言葉が出てきたときに、どのような状況を思い浮かべるだろうか。
おそらく、今話している相手がヘルメットを被って建築資材をせっせと運び、家を”建てた”とは思わないだろう。
ところが、ここミャンマーでは違う。
「家を建てた」と言った時、それは目の前にいる人が文字通り家を”建てて”いる場合が多いのだ。
家の設計を考え、資材を購入し、家族や友人と力を合わせて作業を行う。
たとえ、建築のプロでなくてもだ。
できることは何でも自分でやってしまう、それがミャンマー人である。
今回訪問したヤンゴン郊外の貧困地域に住む家族もまた、自分の手で家を建てようと計画しているそうだ。
彼らの住宅事情に迫ってみよう。
目次
大量の家電に囲まれて暮らす家族
ミャンマー最大都市・ヤンゴンの郊外に位置するシュエピター。
今回訪問した一家は、玄関先で家電の修理屋を営んでいる。
家の正面口には大量の家電が積み重ねられ、とても家の中に入れる状態ではない。
「こっちよ~」と手招きするお母さんの後について、裏口から家の中へ。
しっかりした造りの、2階建ての住宅だ。
…家の中にもたくさんの家電やその部品が散乱している。
「仕事が趣味みたいなものなんだ。」とお父さんは照れくさそうに言い、お母さんも「物が多すぎて片付かないし、掃除しようとすると、どこに何があるか分からなくなるから動かすなってお父さんに怒られるんだもの。もう諦めちゃったわ。」と笑っていた。
ご近所さんは親戚ばかり?
この家に暮らすのは3人。
お父さん・お母さんに加え、工場で働く28歳の長女が住んでいる。
19歳の長男は既に結婚して近所に住んでいるそうだ。
この家があるのは、元々お母さんの父親が所有していた土地。
お母さんを含む子どもたち5人で場所を分け合い、それぞれが小さな家を建てて暮らしている。
つまり、お母さんの兄弟たちの家が目と鼻の先にあるという訳だ。
ミャンマーでは、このように両親が持っている土地を子どもたちで分け合うのはよくあることらしい。
両親が上の兄弟から順番に場所を割り振っていくこともあれば、兄弟間でくじ引きをして決めることもあるとか。
家族の繋がりが強いミャンマー人らしい方法だ。
自宅の改築を検討中…
さて、お母さんによると、一家は家の建て直しを検討しているらしい。
「この家を建てたのは7年前だからね、そろそろ建て直して綺麗にしたいわ。」とお母さん。
同居中の娘さんは結婚後も両親と暮らしたいと考えているので、なんとか彼女の結婚前には家を改築したいとのこと。
現在の家は、2階建て。
1階の床はコンクリートで壁がレンガ、2階は床が木材で壁は編んだ木でできている。屋根はトタンだ。
壁をよく見るとレンガを接着するセメントが崩れ、隙間が空いている。
更に、毎年の雨季(5~10月)には、少なくとも2回は20cmほど浸水してしまうそうだ。
「だいぶボロボロでしょう?今頑張ってお金をためているのよ。」
では、家の建て直しには、一体いくらくらいかかるのだろうか?
「そうねえ…大工さんに頼めば、材料費も入れて1,000,000~1,500,000チャット(10~15万円)くらいじゃないかしら。」
月収が300,000~400,000チャット(約30,000~40,000円)のこの家庭からしたら、かなりの出費だ。
”頼めば”ということは、頼まない選択肢もあるのだろうか?
「そりゃ、あるわよ。自分たちで建てれば良いじゃない。今の家だって、自分たちで建てたのよ。」
自分の家は、自分で”建てる”
この家は、基本的にお父さんと親戚の男性陣で建てた。ちなみに、その中に大工は1人もいない。
人手が足りない時だけ日雇いで人を雇い、4~5日で作業は終了したという。
どうして家の建て方を知っているの?と聞くと、
「どうして、と言われても…」と困り顔のお母さん。
「昔から、家族で家を建てたり、修理したりしてきたんだから、自然と覚えるわ」とのこと。
「じゃあ、ミャンマーの人は、大体皆家の建て方とか分かっているの?」と聞いてみると、お母さんや遊びに来ていた近所のおばちゃんたちが一斉に頷いた。
設計から資材の調達、建設作業まで、全て自分たちで行うという。
逆に、「え、日本人は自分で出来ないの?」と聞かれる始末である。
どうしても自分でできないことはプロに頼むが、大抵のことはまず自分でやってみる。
「皆で協力すれば何とかなるわ。自分たちでやった方が安く済むもの!」
と、あっけらかんとお母さんは言った。
建築資材も身近な場所でGET
竹や木材、レンガなど、建設に必要な資材は、家から歩いて5分ほどの店で簡単に手に入る。
竹や木だけで家を建てる場合は300,000~500,000チャット(30,000~50,000円)、レンガやコンクリートも利用する場合は700,000~1,000,000チャット(70,000~100,000円)程度で資材を準備できる。
前者は3~5年、後者は7~10年程に1回大幅な修理や建て直しが必要になるそうだ。
八百屋や雑貨屋と同じように、当たり前のように建築資材を売っている店が街中にあることからも、家を建てたり修理したりすることが人々にとって身近であることが分かった。
まとめ:何でも自分でやってしまう、それこそがミャンマー流?
自分たちの手で家を建ててしまうという、ミャンマーの貧困地域に住む人々。
日本人からすると驚きの事実だが、冷静に考えれば、私たちもわざわざ学校に通って掃除の仕方を習ったことは無い。
手取り足取り洗濯物の干し方を習ったことも無い。
子どもの頃から家族の手伝いをしながら、自然と覚えていったのである。
ミャンマー人にとっては、家の建て方・修理の仕方もその内のひとつだった、ということだろう。
どうしても出来ないところだけプロに任せ、残りは家族や友人と力を合わせて作り上げていく。
ミャンマーの人々の、生活していく上でのたくましさを感じたインタビューであった。
ビジネス:家電製品の修理屋
世帯人数:3人 [夫・娘(28歳・独身)] (息子(19歳)は、結婚して近所で暮らしている)
月収:300,000~400,000チャット(約30,000~40,000円)