ミャンマーは「修理大国」である。
どんなものでも、壊れたからといってすぐには捨てない。
例えば、家電製品が壊れたとしよう。
日本人の場合、価格が高いパソコン等ならともかく、比較的安価な扇風機や電気ケトルなら、わざわざ修理に出さずに買い替える人も多いだろう。
家電好きの人なら、たとえ壊れていなくても、新しい製品が販売されたらすぐに買い替えてしまうかもしれない。
しかし、ミャンマー人は違う。
家電にせよ、傘や靴などの日用品にせよ、壊れてもすぐには捨てず、修理をしながら大切に使い続ける。
場合によっては、何十年も同じものを使い続けているから驚きである。
とはいえ、全てのものを自分の力で直せるわけではない。
そんな時に頼りになるのが、「修理屋」だ。
今回は、ミャンマー人の生活に欠かせない家電修理ビジネスをご紹介したい。
目次
家電なら何でも直してしまう「機械のお医者さん」
看板いらず?入口に山積みされた〇〇
ミャンマー最大都市・ヤンゴンの郊外に位置するシュエピター。
木や竹でできた小さな家が立ち並び、人々が行き交う賑やかな通りが、今回の訪問先だ。
目的地となる家電の修理屋さんは、そんな通りの端にひっそりと立っている。
到着してすぐに目に入ったのは…
山のように積まれたテレビや家電の部品。
入り口が完全に塞がれてしまっているが、紛れもなくこの場所こそが家電の修理屋さんである。
取材当時は乾季(11~翌5月頃)で雨が降らないから外に放置していても問題ないが、雨季の間は一体どうするんだろう?
そんなことを思いながら、ご自宅に訪問するために裏口へ。
家の脇にも、様々な家電とその部品が積み重なっている。
さらに家の中にも、家電や修理道具が散乱していた。
どうやら、かなり繁盛しているようだ。
早速、修理屋の仕事について詳しく聞いてみよう。
「修理屋」ってどんな仕事?
お話を聞かせてくれたのは、こちらのお母さん。
30年以上、お父さんと二人三脚で家電の修理屋を経営している。
この店では、お客さんが持ち込んだ家電を修理し、その修理代を受け取っている。
テレビ1台を修理した際の手取りは、5,000~7,000チャット(約500~700円)だ。
「テレビ、ラジオ、DVDプレーヤーを持ってくる人が多いかな。でも、扇風機や炊飯器も、何でも直せるよ。どんな家電でも、うちに持って来れば心配ご無用!」
と夫婦は明るく語った。
更にこの店では、中古家電の販売も行っている。
故障している中古品を安価で仕入れて修理し、新品よりも安い価格で販売するのだ。
例えば、壊れたテレビを修理して40,000チャット(約4,000円)で販売している。新品で買えば90,000チャット(約9,000円)するので半額以下だ。
もっとも「安物でも良いから新品を買いたい」と考える人も多く、中古家電を買い求める人はあまり多くないそうだ。
平日の来客数は1日に1~2人程度だが、週末は1日に10人以上がやってきて、対応や修理で大忙しとのこと。
1か月あたり、30~40万チャット(約3~4万円)の収入があるという。
揺るがぬ日本製への信頼!でも普及しているのは…
さて、修理屋の仕事に欠かせない商売道具、それは家電の部品だ。
お店を始めた30年前は部品自体があまり普及しておらず、2時間近くかけて街の中心部にある販売店まで通っていた。
当時普及していた部品のほとんどは日本製だったそうだ。
この部品は、中古の日本製家電から部品だけを取り出して再利用したものである。
現在では、近所の市場でも部品を購入できるようになり、かなり仕入れは楽になったという。
ただし、かつては日本製で埋め尽くされていた販売店も、今では取り扱う商品の大半が中国製だそうだ。
その中国製の部品は新品で低価格であるが、日本製に比べると質が悪いという。
「買えるものなら、日本製を買いたいさ!質が良いし、評判も良いからね。でも、日本製の部品は高いんだ。中国製の2倍はするね。うちは小さな店だし、お客さんも貧しい人が多いから、とても日本製のものは買えないよ。」
ミャンマーでは、日本製の家電やその部品は値段が高いという認識が一般的である。
確かに、富裕層向けのショッピングモールでは日本メーカーの家電も目にするが、街中の家電やスマホ量販店の看板を見ていると、中国や韓国のメーカーが目立つ。
それでも「日本製」に良いイメージを抱く人は多いようで、例えばタクシーに乗ったときなど、こちらが日本人だと分かると、「この車は日本製なんだよ」「この腕時計は日本のメーカーのなんだ!もう何十年も使っているよ」と得意気に語ってくれる人もいる。
中間所得層以下の人々にとって、高品質・高価格の「メイド・イン・ジャパン」の家電は憧れの対象ではあるが、実際の日常生活で身近なのは中国や韓国のメーカーであるようだ。
遠方からのお客さんも!人気の秘訣に迫る
さて、続いてはお店の人気の秘訣を探っていこう。
実は、近隣にも同じ商売を行う競合店は3店ほど存在する。
それでもこの修理屋には、近所のお客さんだけでなく、遠方からわざわざやってくるお客さんもいるという。
お父さんとお母さんによると、その人気の理由は2つあるそうだ。
①安心の価格
1つ目は、見積もりの相談料が無料であること。
通常お店に故障した家電を持ち込んだとき、店員は家電の状態を確認し、修理代の見積もりを出す。
しかし、店の周辺に住む人たちは裕福では無く、修理代を準備するのに時間がかかるため、その場では修理を依頼せずに家電を持ち帰ることが多い。
競合店では、見積もりを算出するだけでも、相談料を請求する。
お客さんは、家電の状態と修理代を知るためだけにお金を払い、その後さらに修理代を準備しなければならない。
一方この店では、修理代を見積もるだけなら代金を請求しない。
「お金が無いのはお互い様だよ。修理代を準備できるまで待つのは当たり前さ。」と、お父さんはさらりと言った。
相談料をとらないだけでなく、修理が終わってから値段をつりあげるようなこともしないため、お客さんは安心してお父さんに修理を頼みに来るそうだ。
②長年かけて築きあげた信頼関係
2つ目は、夫婦がこの30年で築き上げた、顧客との信頼関係だ。
夫婦は子どもの頃からこの地域で生まれ育っているため、知り合いが多い。
貧しい人や老人がお経を聴けるようにラジオを無料で修理してあげたり、近所の若者たちに無料で家電修理の技術を教えたりと、近隣の人々に貢献する気持ちを常に忘れていないのだ。
更に、顧客への丁寧な対応も欠かさない。
その1つが、お客さん1人1人に対する手厚い説明だ。
この家電はこの部分が壊れている、だからこんな風に直す、修理代はこのくらいかかる、ということをお父さんはしっかりとお客さんに説明している。
必要であれば、ちょっとした故障の際に自分で直す方法を教えることもあるそうだ。
当たり前のこと、と感じるかもしれないが、大した説明もせず修理を行い、修理代を請求する店が多いのだという。
どこをどう直したかも分からないのに費用を請求されても、お客さんの側としては納得がいかない。
そのため、時間をかけて丁寧に説明してくれるお父さんを信頼して、わざわざこの店まで足を運ぶお客さんが多いのだ。
このように顧客を思いやる夫婦の人柄に惹かれ、多くの人々が店に足を運んでいる。
まとめ:ミャンマーに根付く「もったいない」精神
あらゆる家電を直してしまう修理屋を営むご夫婦。
何年も何十年も、大切にものを使い続ける人々の生活には欠かせない存在だ。
「ミャンマーにはものづくりの技術が無いし、しょっちゅう新しいものを買うほど裕福でも無いから、他の国から持ってきたものを直して使い続ける術が自然と身についたんだよ。」
と笑いながら語っていた。
壊れたり古くなったりしたらすぐに新しいものを買ってしまう大量消費社会に生きる日本人としては、是非とも見習いたい習慣である。
ビジネス:家電製品の修理屋
世帯人数:3人 [夫・娘(28歳・独身)] (息子(19歳)は、結婚して近所で暮らしている)
月収:30~40万チャット(約3~4万円)