雑貨屋店主カインさんとその息子さん

ヤンゴン郊外にある「コンジャンゴン」という街にやってきた。日本語にすると「キンマ(噛みタバコ)の丘」という意味である。その名の通り、この街では昔からキンマの葉が多く生産されてきたのだという。

 キンマとは?
キンマの写真
ビンロウの実と水で溶いた石灰を、キンマの葉で包んだ物。口に含んで噛む嗜好品。
噛むと独特の酩酊感を得ることができるのだという。
(キンマについての記事はこちら)

今回お話を伺ったのは、この街で雑貨屋を営むエイ・カイン(39)さん。

6歳年上の旦那さんと、二人の子供たちとの4人暮らしだ。

雑貨屋はカインさんが経営しており、娘さん(16)はその手伝いをしている。旦那さん(45)はサイカーと呼ばれる自転車タクシーの運転手や建築現場で日雇いをして家計を支えているのだという。

 

カインさんの雑貨屋をご紹介

カインさんの雑貨屋さん

木や竹を使って建てられたシンプルな建物。これがカインさんの雑貨屋だ。

3年ほど前にマイクロファイナンス機関の融資を受け、このお店を始めた。
開業当初は今の半分ほどの大きさだったが、翌年に兄弟からお金を借りてお店を大きくしたのだという。

「ビジネスを拡大したかったの。手作りのラペットゥ(茶葉のサラダ)やカップ麺などの軽食を商品に追加したわ」

カインさんお手製のラペットゥ。干し海老や茶葉、木の実、グリーントマトなど沢山の具材が入っていて、お値段なんと500チャット(約35円)

人気No1! キンマの丘の噛みタバコ

一番人気の商品をカインさんに尋ねると、大きなポリバケツいっぱいに積み重ねられた葉っぱを指差した。

「これよ!これ!キンマ!」

整然と並べられたキンマの葉

その名を冠した土地だけあって、質が高く新鮮なキンマを仕入れることができるのだという。

キンマを包むカインさんの写真

キンマの葉で包まれた噛みたばこを1つ頂いた。

以前試したものとは違い、キンマの葉はとてもみずみずしく、2、3回咀嚼すると新鮮なハーブのような香りが口いっぱいに広がった。
(キンマについての詳しいご紹介はこちら)

雑貨屋さんでツケ払い?

ラペットゥや地元産のキンマなど、魅力的な商品が揃うカインさんの雑貨屋。しかし、一番の強みは顧客とのコミュニケーションにあるのだという。

「お菓子や軽食を主に扱っているから、子供達や10代のお客さんが多いの。彼らの懐事情によってはツケ払いを許すこともあるわ」

13歳の息子を週に6日も塾に通わせており、月に3万チャット(2,100円)の授業料がかかるというカインさん。彼女自身も決して余裕のある生活を送っているわけではない。

雑貨屋さんでツケ払い

耳慣れないフレーズだが、これもミャンマーに強く根付いている互助精神の一部なのだろう。

10年を振りかえる

汗だくの顔をハンカチで拭うと、私たちの暑さを和らげようと小さな扇風機を持ってきてくれた。

いまだに公共の電気が届いていない世帯も多いミャンマーだが、カインさんのご家庭には電気、地下水の汲み上げ装置などが備わっていた。
(ミャンマーの電力事情についてはこちら水事情についてはこちら)

10年前と現在の暮らしについて語るカインさん

「電気と地下水の汲み上げポンプを導入してすごく便利になった。昔は遠くまで水を汲みに行っていたから大変だったのよ」

カインさんのご家庭では、
電線を自宅まで引くのに14万チャット(約10,000円)、
地下水の汲み上げポンプを導入するために18万チャット(約13,000円)のコストが掛かった。

電気代は月々6,000チャット(約420円)、地下から水を引き上げているため水道代はかからないという。

 

家財を全て失った10年前

台風で家財をすべて失ってしまった当時を回顧するカインさん

「2008年に大きなハリケーンが来て、家財が全て失くなってしまったの」

あっけらかんとした様子で当時を回想するカインさん。
ハリケーンの被害に遭い、家財を全て失ってしまった。その後はしばらくの間、NGOの支援を受けて生活をしのぎながら日雇いの仕事を必死にこなし、生活を立て直した。

「でもその翌年から、電気や水道が使えるようになったのよ」

各国からの復興支援により、インフラ整備が急速に進んだのだという。

その後の変化

この10年で、人々の生活にどのような変化があったのか尋ねてみた。

「全体的に生活水準は上がっていると思うわ」

「ただ最近は、未成年のうちからお酒を飲んだりタバコを吸ったりする子が増えているの」

「食生活もとても変わったわ。昔はみんな自分で育てた野菜を食べていたのに、最近は農薬を多く使った野菜を買う人が増えたから、病気の原因になっているの」

若者と接する機会が多く、ご自身も二人の子供を持つお母さんだからこそ健康問題が気になるようだ。

この先地域にどのような変化を望んでいるのか尋ねた。

「もっと発展してほしい。特にこの辺りは工場が少ないから雇用の機会もとても少ないの。ほとんどの若者たちは、賃金の安い日雇いの仕事をするしかないのよ」

災害に見舞われながらも懸命に生き抜き、ミャンマーの変化を見守ってきたカインさん。
彼女は発展していくミャンマーで、雇用の不足や新たな文化に直面する若者の未来を案じていた。

 

キンマを包むカインさんの写真

話し手:エイ・カインさん(39歳)
ビジネス:雑貨屋
世帯人数:4人(本人・夫・子ども2人)
世帯月収:51万チャット(約37,000円)

(内訳)
妻(雑貨屋経営):36万チャット(約26,000円)
夫(日雇い):15万チャット(約11,000円)


取材協力:
MJI Enterprise

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