「お風呂」と聞いてどのようなものを想像するだろうか。
日本であれば、浴槽があり、そしてシャワーがある。
お湯につかり、入浴剤をいれて、1日の疲れを癒す場。
動画を見たり、歌を歌ったりするひともいるだろう。
では、ミャンマーのスラムのお風呂はどうだろうか。
どんな場所にお風呂があって、どんな道具があって、どのように入るのだろう。
ヤンゴンに留学中の筆者の体験談と共にお届けしたい。
目次
スラムの家庭を訪問!100万円の土地に住む家族って?
まずは、今回訪問したご家庭を詳しく紹介していこう。
簡単な家系図がコチラ。今回話を伺ったのは、この家のお母さんだ。
家で八百屋のような商売をするお母さんの1日は、朝5時に始まる。
市場に行って商品を買い、8:30~9:00にはお店をオープンできるよう支度をするのだ。
お店は、お母さんが寝る直前の21:00まで開けておくそうだ。
なんでお母さんがこの仕事、つまり“食材や物を市場で買ってきてそのまま売るだけ”の仕事を選んだのかというと、まだ小さい7歳の次男の傍にできるだけいてあげたいからとのこと。
実はこの家を建てたのも、息子や娘に勉強をするのに良い環境を与えたかったから。
5年かけてお金を貯め、この土地を2年前に購入したという。
そのお値段、なんと100万円!
スラムに100万円もする土地があるとは、予想もしていなかった。
お店の開店中は、1時間に3~4人ほどのペースでお客さんが来る。
お母さんは1日中店番をしなくてはいけないが、お客さんがあまり来ない時間をうまく使い、営業中に家事を済ませているらしい。
ミャンマーのお風呂はドラム缶?
では、いよいよ一家が使っているお風呂を見せて頂くと、そこにあったのは…
お風呂というより、ドラム缶?
一体どうやって入るのだろう。
いや、そもそもこの場所って…
家の前。
周りを囲う壁などない。
しかも、目の前の通りは人通りも多い。
お母さんが普段お風呂に入るのは午後4時だという。
まだ明るい時間だ。
そんな時間に、家の前でお風呂に入るのはいかがなものかと…。
ミャンマー人のお風呂の入り方~実際に体験してみた~
話を聞くと、どうやら「お風呂」といっても、実際にこのドラム缶の中に入る訳ではないらしい。
では、どのように入浴するのか?
現在ミャンマー留学中の筆者ができる限り体を張って(?)、その入り方を説明しようと思う。
まず前提として、ミャンマー人はお風呂に入るときに裸にはならない。
「ロンジー」というミャンマーの伝統衣装を知っているだろうか?
このスカートの部分(タメイン。女性用のロンジーの総称)をうまく使うのだ。
実はこのスカート、いろいろなタイプがあるが、基本的にはただの一枚の布ではく、わっか状になっている。歩いたときに風が吹いても、はだけて足が見えないようにするためだ。
これをバスタオルのように、胸のあたりから巻き付けて準備完了だ。
ちなみに、シャワーキャップをよくつけている。
というのも、ミャンマー人はシャワーは朝晩浴びるものの、頭を洗うのは2~3日に1回が一般的だからだ。
さあ、いよいよ入浴スタート!
外へ移動し、先程のドラム缶へ。
そのドラム缶に入る…のではなく、桶のようなものを使って、中に入っている水を肩からバシャバシャとかける。
体を洗う際は、口と顎をうまく使ってロンジーをおさえ、モゾモゾ洗う。
すべて洗い終わったら、上から新しいロンジーを被り、びしょ濡れのロンジーを下からさっと抜く。
これでお風呂は終了!
外で水を浴びるなんて寒くないのか、と思われるかもしれないが、暑さの厳しいミャンマーではあまり問題ない。
ちなみに、お風呂あがりには「タナカ」を塗る人が多いそうだ。
(※タナカ:木の樹皮をパウダー状にした自然化粧品。保湿や日焼け止めの効果があり、ミャンマーでは子どもや女性が使用することが多い。)
日本よりも高額!? 1回あたりのお風呂代とは
さて、水道がないこの地域では、お風呂の水も毎回わざわざ買わなければならない。
写真のように、おじさんがバケツで運んできてくれる水。
この水で、はじめに見てもらった青い大きなお風呂用のバケツをいっぱいにすると、1,000kyat(約100円)がかかる。
ここで、日本の場合と比較してみよう。
日本の浴槽に水を貯めるのにかかる水道代は、約48円/回(ガス代は含まない)と言われている。
つまり、ミャンマーで1回のお風呂にかかる水料金は、日本の倍と言えるのだ。
この出費は、彼らにとって大きな負担に違いない。
ちなみに、家族全員がこの水でお風呂を済ませた後は、残りの水で洗濯をする。
この家の洗濯スペースは家の奥にあった。
ミャンマーでは洗濯物を干すときのルールがある。
洗濯物をつるすための棒が上下にあるのがわかるだろうか。
上半身に身につけるものは上段に、下半身に身につけるものは、パンツでもズボンでもなんでも下段の見えない場所に干す。
また、女性のロンジーの下を男性が通ってはいけないのだとか…。
100万円の土地を購入できる家庭が、スラムに暮らすワケ
お風呂や家の造りを見る限りは貧困層のようにも思えるが、5人家族を養いながら、5年間で100万円を貯め土地を購入、さらには子供の教育費に関しても、次男を塾に通わせるだけで月に70,000kyat(約7,000円)もかかるなんて。
果たしてこの家族は貧困層なのか?
それとも、貧困層のように見えるが、無駄なお金を使わずにいるだけで、実はものすごく貯金があるのか?
次男を学校とは別に、英語とコンピューターの塾に通わせていることから、子供の将来の夢を応援していることがわかる。また、今の商売を選んだ理由も、幼い子供の傍にいたいという理由からだった。
家の壁の掲示物を見ても、母親が子供の教育に対して熱心であることがわかるだろう。
現在お母さんは、お金を貯めてはそれを金のアクセサリーに変えて、隠して保管している。本当は銀行を利用して貯金をしたいが、支店が遠いため断念したそう。それでも、子どもたちの将来のために、教育への投資は怠らないという姿勢を貫いている。
今回は、私のスラム街の人々に対するイメージを大きく覆す家族に出会えた。
個人的にいろんな途上国でインタビューをしたことがあるが、貧困地域ではよく「将来の夢」という概念すら知らない子供たちに出会う。
今回インタビューさせてもらった家庭の子が、将来の夢をきちんと自分自身でもっていて、それを両親がきちんとサポートしていることにとても感動した。