箒ビジネス

ミャンマーの最大都市ヤンゴンから北へ車で2時間ほど走ったところに、バゴーという地方都市がある。今回ご紹介するのは、7年前からビジネスを始めたティン・ザー・リンさん(42)。3人の子を持つ母親でもある彼女は、現在2つのビジネスを手がけている起業家だ。

まったくの未経験から箒工房に挑戦

1つ目のビジネスは竹箒(たけぼうき)の製造と卸売。自宅の一階がリビング兼工房となっており、韓国ドラマを見ながらくつろぐ娘さんのすぐ脇には材料の竹が大量に積まれている。竹やココヤシの葉の芯など、ホウキは全て自然の素材で作っている。

7年前に竹箒(たけぼうき)を作るビジネスを始めたティンさん。まだ子供たちが小さかった開始当時は、同居している叔母に子供たちの面倒を見てもらいながら事業と子育てを両立していた。

「最初に大変だったのは、材料の仕入れ先を探すことね。私たちは情報を持っていなかったし、どこで情報を得ることができるのかさえ知らなかったの。」

質が良く価格の安い材料を求め、ときには旦那さんと二人でバイクに乗り、材料の産地付近まで仕入れ先を探しに行くこともあったのだという。

その後、ホウキ作りの勉強のために職人を雇い、毎晩のように旦那さんと共にホウキ作りのノウハウを学んだ。自らの足で商品を売って貰えるようお店に直接お願いをして周った。

「はじめはお店に商品を置いてもらって、売れた分のお金だけを後で回収していたの。ちょうど一年が経った頃かしら、卸先の店が事前に買い取ってくれるようになったのよ。」

事業開始から7年が経った今では8人もの従業員を雇い、1日に約200本の竹箒を売り上げるほどの事業に成長した。

品質の良い商品を1年間継続して納品することで、積み上げた信頼がビジネスの大きな転機になったと語るティンさんの表情は、とても誇らしげに見えた。

成功の鍵はSNS?新規事業への取り組み

ティンさんが手がける2つ目の事業は、ソーセージや魚の練り物などの加工食品の販売だ。2年前から始め、こちらも順調だという。注文は増え続け、今では在庫保管用の大きな冷蔵庫が4つも必要になるほどだ。

このビジネスが軌道に乗ったのは事業開始から約5ヶ月が経った頃。

Facebookページを作成し、商品やサービスの宣伝をしたところ、売り上げが飛躍的に伸びた。商品の注文もFacebookを通して入る。

ミャンマーでFacebookは非常に人気があり、なんとインターネットトラフィックの85%がFacebookに占められている。(※1)

ヤンゴンまで買い付けた商品を積み下ろしする様子

毎朝6時半に前日に受けた注文を確認する。午前中はティンさんの所有する車でお客さんの店まで商品を配送し、その日の夜の時間帯に代金を回収しに行く。二度手間のように思えるが、商品が売れてお店にお金が十分にある時に代金を回収しに行く意図があるのだとか。1日に平均して10店舗を周る。

ティンさん宅では仕入れた商品の一部が売られている

お店の商品は車で2時間ほどかけてヤンゴンのダウンタウンまで行き、仕入れている。ご近所の人たちも購入できるよう、自宅の軒先に小売用のスペースも設けていた。

なぜ、そんなに頑張るのですか?

2つのビジネスを営み、朝から晩まで働き詰めのティンさん。最初に始めた箒づくりと、バイクの修理店を営む旦那さんの収入だけでも十分な生活を送れそうだが、なぜここまで一生懸命に働くのだろうか。

「とにかく子供達の教育にお金がかかるの、特に長女は今年大学受験だから。」

娘さんはなんと家庭教師を6人(科目別に1人ずつ)つけているため、1ヶ月に70万チャット(約5万円)もお金がかかるのだという。家庭教師を複数つけるのは非常に稀で、大学受験を控えた学生は5万〜10万チャット(約3,500〜7,000円)の塾に通うことがほとんどであることからもティンさんの教育熱が伺える。

(参考:ミャンマーのスラムでも塾で勉強は当たり前?)

そのほかに次女と長男の塾代が1ヶ月15万チャット(約1万円)掛かっているのだという。ティンさんも大学を卒業しているため、子供達にも大学進学させたいと考えている。

ティンさんの今後の目標について尋ねてみた。

「今よりももっと多くのビジネスを手掛けたいと思っているわ。」

いつかはこの街一番の大通りに店を出したいのだという。これまで並外れた努力と、時流に乗ったアイディアで二つの事業を成功させてきたティンさんの目標はきっと叶うに違いない。

 

話し手 :ティン・ザー・リンさん(42歳)
ビジネス:ホウキの製造、加工食品販売
世帯人数:8人(本人、夫、子供3人、父、叔母、甥っ子)
世帯月収:320万5000チャット(約22万8000円)
(内訳)
ホウキの製造                       :67万5000チャット(約4万8000円)
加工食品販売の利益     :198万チャット(約14万円)
バイクの修理店を営む夫の収入:55万チャット(約3万9000円)

『参考』
※1 Frontier Myanmar – 『What Myanmar’s Facebook supremacy means for business』
https://frontiermyanmar.net/en/what-myanmars-facebook-supremacy-means-for-business

取材協力:MJI Enterprise

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