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ミャンマーから、毎年多くの出稼ぎ労働者が国外に出ている。
現在のミャンマー人出稼ぎ労働者の総数は、人口の1割弱にあたる約500万人にのぼる(1)

家族の生活を支えるため、妹や弟、子どもを学校に行かせるため、彼らは異国の地でせっせと働き、祖国の家族に仕送りをしているのだ。

しかし、この仕送りに関して、私には1つの疑問があった。
実は、ミャンマー人の多くは銀行口座を持っていないのである。
一体どのような方法で仕送りをしているのか、ずっと疑問に思いながらも、なかなか知る機会を得られなかった。

今回は、遂に明らかになった海外出稼ぎ労働者の送金方法をご紹介したい。

父が出稼ぎに行っている、とある一家

訪問した家庭

まずは今回訪問した家庭について見ていこう。
ミャンマーの家系図

現在この家に住んでいるのは、お母さんと2人の子ども、そしておばあちゃんの4人。
お父さんは6年前からマレーシアに出稼ぎに行き、自動車の整備士として働いている。

お母さんは家の近くで小さなレストランを開いている。

ミャンマーのレストラン
お母さんお手製のミャンマーカレー。油っこいカレーを、たくさんの白米と共に食べる。

朝はチャーハンや焼きそば、昼から夕方はミャンマーカレーを売っており、月収は400,000チャット(約40,000円)程度だそうだ。

子どもたちは学校や塾に通い、大学進学を目指して熱心に勉強している。
裕福な家庭では無いものの、日々の食事に困ることもない、いたって庶民的な家庭のように感じられた。

一体何がきっかけで、お父さんは出稼ぎに行くことになったのだろうか?

渡航のきっかけ

今から6年前、お父さんは当時既にマレーシアで働いていた叔父に、一緒に働かないかと声をかけられた。
勉強熱心な子ども2人を大学まで行かせたいと考えたお父さんは、それまでの警備員の仕事を辞めて渡航することを決意。
より良い収入を求めて、マレーシアへと旅立った。

当初はミャンマー語以外の言語は全く話せなかったが、同僚はミャンマー人ばかりなので困らなかったし、今ではかなり流暢に現地語を話せるそうだ。

ちなみに、住居の準備など必要な手続きは叔父が全て手配してくれたため、お父さんは航空券代などの諸費用として、600,000チャット(約60,000円)の準備さえすれば良かったという。

家族との連絡手段

お母さんは以前国際電話を利用してお父さんと連絡をとっていたが、数年前にスマホを購入してからは、無料通話・メッセージアプリのViberを利用している。連絡の頻度は月に1~2回から週に3~4回と格段に上がった。

Viber
日本ではLINEを利用する人が多いが、ミャンマーではViberやFacebook Messengerの利用者が多い。(参考:  Viber Messages & Calls Guide)

Viberはミャンマーで最も普及している欧米発の無料通話アプリで、全世界に展開している。
2014年には楽天株式会社が9億ドルで買収し、現在はRakuten Viberという名でサービスを提供している(2)

弊社が2017年に行った調査※1では、ミャンマーのスマホ所有者の61%がViber、56%がMessengerのアプリを自分のスマホにインストールしており、19%がViberを、14%がMessengerを毎週使うと回答した。
(ちなみに同調査で、Facebookのインストール率は67%、アクティブ利用者は38%だった。)

いよいよ迫る!仕送りの送金方法

頼りになるのは”送金業者”?

毎月400,000~600,000チャット(約40,000~60,000円)の収入を得ているお父さんは、給料の2/3をミャンマーにいる家族に送っている。

一体どのように送金しているのか、その手順を聞いてみた。
出稼ぎの送金方法①

  1. お父さんが送金業者に資金を託す。
  2. 送金業者がカンボーザ銀行(ミャンマー民間最大手)を通じてお母さんへ送金する。
  3. お母さんが最寄りの銀行窓口で送金を受け取る。

どうやら、この「送金業者」なる人物が重要な役割を果たしているようだ。
ちなみにこの送金業者は「地下銀行」と呼ばれ、違法である。また、ミャンマーではこのような地下送金を「フンディ」と呼ぶ。

疑問①銀行口座が無くても送金を受け取れるのか

ミャンマーでは、銀行口座の保有率が極めて低い
念のため、お母さんに銀行口座を持っているか確認してみると、やはり「持っていない」という返事。

送金業者から手渡しでお金を受け取るのならともかく、口座も無いのに一体どうやって銀行で送金を受け取るのだろうか?

実はミャンマーでは、銀行口座が無くても、身分証明書(国民登録証:National Registration Card)さえあれば送金の受け取りが可能である

送金業者は、送金時に送り先の銀行支店を指定し、お母さんの名前と身分証明書番号を伝える。
お母さんは、指定された銀行支店の窓口で身分証明書を提示すれば、送金を受け取ることができる。
ミャンマーの送金方法

銀行支店が少ない地域に住む人々にとっては楽な方法では無いが、お母さんが住むヤンゴン郊外のミンガラドンにはカンボーザ銀行の支店があるため、そこまで苦労せずとも、お父さんからの仕送りを受け取れているのだという。

疑問②送金業者に頼む必要はあるのか

銀行口座が無くても送金できるなら、わざわざ業者を介さなくても…
ミャンマーの送金方法

この図のように、お父さんからお母さんに直接送金すれば良いのではないだろうか?
お父さん自身が銀行を通じて送るにせよ、送金業者に依頼するにせよ、いずれにしても手数料がかかるのだから、わざわざ業者を利用する必要は無いように感じる。

しかしお母さんは、送金業者を利用したいという。

その理由は、送金のスピード
個人で送金すると届くまで1週間ほど要するが、業者に頼むと1日で届くそうだ。

個人で海外送金をすると1週間程度かかるのは理解できる。
しかし、業者を仲介した方が速いというのは一体どういうことなのだろうか。

遂に解明!送金方法にまつわる謎

どうやら、正確にはこういうことらしい。
出稼ぎの送金方法③

  1. お父さんがマレーシアにいる送金業者Aに資金を託す。(業者によってレートが異なる。)
  2. 送金業者Aが、ミャンマーにいる送金業者Bに送金を指示する。
  3. 送金業者Bが手元の運転資金を利用し、カンボーザ銀行を通じてお母さんに送金する。
  4. お母さんが最寄りの銀行支店で送金を受け取る。

名目上はマレーシアにいるお父さんからの送金だが、実際に銀行の海外送金が行われている訳ではない(3)
この方法なら速く届くのも納得だ。

ちなみに送金業者Bの中には、受け取り手の玄関先に直接現金を届ける業者もいる。この場合、受け取り手がサインした領収書の写真が、送金業者を通じて送り手に送信されることで送金が完了する。

おわりに;仕送り送金×Fintechへの期待

今回の取材で明らかになった送金業者(地下銀行)を介した海外送金は、違法である。
しかし、その利便性の高さ手数料の安さから、不法滞在をしている出稼ぎ労働者だけでなく、今回取材した家庭のお父さんのような正規の外国人就労者も、地下銀行を利用している。

一方で現在、金融(Finance)と科学技術(Technology)を融合させたフィンテック(Fintech)が、合法的に出稼ぎ労働者の仕送り送金を支える手段としても注目されている。

タイのTrueMoney社は、同国のミャンマー人出稼ぎ労働者を対象として、タイ-ミャンマー間のモバイル国際送金サービス(TrueMoney Transfer)を開始した(4)
ミャンマーにおける国際送金への需要の高さがうかがえる。

TrueMoney TransferのCM (音声:ミャンマー語、字幕:タイ語)

ミャンマー国内でも、既に複数の通信会社がモバイル送金のサービスを提供しており、今後の発展が期待できる。
例えば、携帯キャリア大手テレノールは、2016年から地場ヨマ銀行と提携してモバイルマネーサービスWave Moneyを展開しており、2017年5月時点で25万人の利用者を獲得したという。

Wave MoneyのCM (音声:ミャンマー語)

しかし、低所得層や農村部に住む人々の多くは、電話をかけること以外のスマホの利用方法をあまり知らないのが現状である。
(前述の弊社調査では、アプリのインストール方法を知っている人はスマホ所有者の15%、モバイルマネーのアカウントを持っている人は3%しかいなかった。)

現在世界中で、電子マネーや仮想通貨を利用し、従来よりも手軽で手数料が安く、かつ合法である送金方法が生まれている。

最新技術を利用したサービスを浸透させるため、ミャンマーではいかに人々のネットリテラシーを向上させていくかという課題に取り組む必要がある。

話し手
ビジネス:レストラン経営
世帯人数:4人 [母・長女・長男] (夫は在マレーシア)
世帯収入:800,000~1,000,000チャット(約80,000~100,000円)

[注釈] (※1) リンクルージョン㈱が、2017年にヤンゴン市内およびヤンゴン郊外の庶民層/マイクロファイナンス利用者を対象に行ったモバイル利用実態調査より(N=200)
[参考] (1) 2016 ナンミャケーカイン 「ミャンマーの労働者派遣システム-タイとマレーシアへの派遣を事例に- (特集2 メコン地域の移民労働者)」アジ研ワールド・トレンド(245)39-42

(2) 「楽天、通話アプリのバイバー買収 5億ユーザー目指す」日本経済新聞 2014/2/14

(3) 2016 久保公二 「ミャンマー人移民労働者の地下送金手段の変容 (特集2 メコン地域の移民労働者)」アジ研ワールド・トレンド(245)31-34
(4)「TrueMoney社、ミャンマーのモバイルフィンテック市場に狙い撃ち」SAGA ASIA Consulting Co., Ltd.

取材協力:Socio Lite Foundation

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