ミャンマーの民族衣装「ロンジー」をご存知だろうか?
男女ともに履いている腰巻スカートで、現在にいたるまで人々は日常的に着用している。
特に女性用は色鮮やかなものが多く、道行く人のロンジー姿を眺めているだけでも面白い。
ところがこのロンジー、近年若者の人気が低下しているという。
今回は、ロンジー調達に欠かせない仕立屋への訪問取材を通じて分かった、ロンジーの特徴や仕立屋の仕事、そしてミャンマーのファッションの動向をお届けしたい。
目次
ミャンマー人が愛してやまない「ロンジー」とは
男女で少し違う?
ロンジーとは腰巻スカートの総称で、男性用を「パソー」、女性用を「タメイン」と呼ぶ。
ちなみに、男女関わらず上着全般を「エインジー」と呼ぶ。
男性は正面で結び、女性は布の端を脇に折り込む、というように男女で着用方法に違いがある。
なぜ人々はロンジーを着るのか
ロンジーはミャンマー人の生活スタイルに適している。
仏教徒が国民の9割弱を占めるミャンマーでは、むやみに肌を露出するのは好まれないが、くるぶし丈のロンジーなら心配なし。
水浴びをするときも、ロンジーは大活躍。ミャンマーでは一般的に、水浴びをするとき裸にはならないのだ。
また実際にロンジーを履くと分かるのだが、布地に余裕があるためあぐらをかきやすいし、ローカルの和式トイレを使う際も汚れない。
生活のあらゆる場面で便利なのである。
ちなみに、公立学校の学生や教員は緑色のロンジー、看護師は赤色というように制服としても利用されている。
一部の大学では、女子学生のロンジー(上下セット)の着用が義務付けられている。
仕立屋さんに直撃取材
ロンジー調達に欠かせない仕立屋
男性用のパソーは既製品を購入し、女性用のタメインやエインジーはオーダーメイドで作るのが一般的である。そのオーダーメイドの注文を受け付けるのが、仕立屋さん。
街のあちこちで見かける、非常にポピュラーな仕事だ。
仕立てたロンジーは世界に一つだけのオリジナル。着る人のセンスの見せ所である。
いよいよ店の中へ
今回取材させて頂いた仕立屋さんは、ヤンゴン郊外のシュエピーターにある。
インタビューしたのは、こちらのお母さんだ。
かつては小さなレストランを開いていたが、近所に同じような店が多く売れ行きが芳しくなかった。
そこでレストランを閉め、マイクロファイナンスの少額融資を利用して仕立屋を始めた。
ん?仕立屋ってそんなに簡単になれるの?
「若い時に叔母に縫い方を習ったの。そんなに難しくないわよ。」
と、あっけらかんと言うお母さん。
ミャンマーには仕立の技術を学ぶ訓練校があるが、家から遠い、学費がかかるなどの理由から、親戚に習ったり仕立屋に直接弟子入りしたりする場合が多いそうだ。
オーダーメイドのロンジーを注文!
では、実際にオーダーメイドで注文する際の手順を見てみよう。
①布を購入する
まずは布選びから。
布は市場や街中の専門店、そして一部の仕立屋でも買うことができる。
今回取材した仕立屋では、店先に色鮮やかな布が所狭しと並べられていた。
うーん、目移りするなあ…。
この店では、ロンジー1着分の布はおよそ7,000チャット(約700円)。
普段使いのロンジー用の値段としては、ヤンゴン中心部とほとんど変わらない。
ただし、新作の布は8,000~9,000チャット(約800~900円)と他の布に比べると少々お高め。
なんと最新のデザインの布の中には、名前がついているものがある。
ミャンマーで有名な女優の名前に由来しており、若い女性はFacebookなどで情報を得て注文に来るという。
お母さん自身も布を仕入れる際に卸から話を聞き、熱心にお客さんに宣伝しているそうだ。
②デザイン選び
布が決まったらデザイン選び。
袖の長さや襟周りの形など決める部分が多く、口頭だけでデザインを伝えるのは簡単ではない。
そこでお母さんが使うとっておきの道具がコチラ!
ロンジーのカタログ!
近所の本屋で、1,500~3,500チャット(約150~350円)程度で購入できる。
お客さんと相談する際にも役立つし、何より最新のトレンドに付いていけるよう、自分の勉強のために買うという。
とはいえ、若者の流行についていくのは一苦労。
布と同様、Facebookでデザインを紹介するページは多数存在するが、お母さんは連絡をとる以外にはあまりスマホを使っていないそうだ。
③採寸
手足の長さやウエストなどをメジャーで手際よく測っていく。
後から多少体型が変わっても、お店に持っていけば調整してくれる。
仕立屋は個人経営の店が多いため、融通が利くらしい。
④縫製
いよいよ仕立開始!
使うのは、店内にちょこんと置いてあるコチラのミシン。
日本では最近あまり見なくなった、足踏み式のミシンがミャンマーでは一般的。
停電が多いため、かえって便利かもしれない。
なんとこのミシン、お母さんが30年前に購入し、今なお使い続けている年代物!
ミャンマーでは物が壊れてもすぐに買い替えるのではなく、街の修理屋に出しながら大切に使い続ける。
大量消費社会に生きる日本人としては、見習いたいところである。
⑤完成
遂に完成した、お母さんの作品がコチラ!
袖口や襟周りのフリルが可愛らしいエインジー。
なんとお母さん、このくらいの服ならたったの1時間半で作ってしまうという。
ロンジー(タメイン)にいたっては10分あれば縫えるとか。
うーん、まさにプロフェッショナル…。
気になる仕立代は?
こちらのお店の仕立代は、上下セットで4,000チャット(約400円)でヤンゴン中心部よりもかなり安い。
それでも、布代と合わせると10,000チャット(約1,000円)を超えてしまう。
この店で売られている既製品のワンピースが7,000チャット(約700円)なので、洋服を買うよりも、ロンジーをオーダーメイドで仕立てる方が費用がかかるということになる。
それでも自分だけのオリジナルロンジーはお洒落なミャンマー人女性の心をくすぐるようで、根強い人気があるようだ。
ロンジーVS洋服。若者の趣向やいかに
このようにミャンマー人に愛されるロンジー。しかし最近では、ロンジーよりも洋服を好む若者が増えつつある。
年齢層によって、洋服とロンジーの売れ行きの違いはあるのだろうか?
お母さんに聞いてみると、
「若者だから洋服を買う、みたいな傾向は特に無いわね。洋服は既製品だからすぐ手に入るけど、オーダーメイドのロンジーなら時間がかかっても自分の好みにあったものができるし、何よりも質が良い。どっちにも良い点と悪い点があるからね。」
とのこと。
都市部では洋服を着る若者が増えた一方で、郊外ではすれ違う人々のほとんどがロンジーを着ている。
ファッションの趣向の変化は、まだまだ始まったばかりのようだ。
お母さんによれば、売り上げの違いは年齢層よりも時期に現れるという。
なんでも、仏教の祭事前には多くの人がロンジーを新調するとか。
特にお正月の水かけ祭り(4月中旬)前は、日頃質素な生活をおくる人々のお財布の紐も緩みやすいようだ。
まとめ
ミャンマーで今なお愛されるロンジー。
市場や専門店だけでなく、最新のショッピングモールでもロンジー用の布は必ず売られている。
一方で、若者たちは雑誌やテレビを見ては、流行のファッションを追いかけている。
現在の日本では、成人式や結婚式などの特別な場でしか着物を着なくなった。
ミャンマーのロンジーも、いつか同じ道を辿るのだろうか。
年齢:55歳
ビジネス:仕立屋・調味料販売
世帯人数:5人 [夫(警備員)・娘(仕立屋手伝い)・娘の夫・孫]
売上(仕立屋): 100,000チャット(約10,000円)程度/月