ミャンマーのアイス屋さん

「アジア最後のフロンティア」と呼ばれる国、ミャンマー。

この国の経済の中核を担うのは、その数300万とも言われる中小・零細企業である。

彼らの特徴の一つに、社会的ネットワーク(人脈)の利用がある。
培った人脈を利用して職を転々としたり、口コミで情報を交換したりするのは、あらゆる国の零細企業に見られる傾向の一つだ。

ミャンマーの零細企業では、社会的ネットワークがビジネスにどのような影響をもたらしているのだろうか。3名の零細事業家をご紹介しながら、その実態に迫っていきたい。

インタビューの概要

ミルクティーショップ
「ラペイエザイン」と呼ばれるミルクティーショップは、ミャンマーの街中のいたるところに存在する。甘いミルクティーと揚げ菓子が定番だ。

マイクロファイナンス機関から融資を受けながらビジネスを行っている零細事業者にインタビューを実施した。
彼らの世帯月収は、平均40万~45万チャット(約2万9千~3万2千円)である。

未登記で小規模な彼らのビジネスを支えるのが、社会的ネットワーク、つまり「人脈」である。

話を聞いてみると、彼らが活用するネットワークには2種類あることがわかった。

①強くて狭いネットワーク

専門知識の獲得と人脈の拡大

「毎日5,000個のキャップを卸すのよ!」

得意げに語るのは、ヂー・ヂー・ウィンさん。
ヤンゴンの中心部からフェリーで川をわたり、そこからさらに車で1時間以上の場所にあるトワンテーという街で、小さなプラスチック製品工房を営んでいる。

小綺麗に整頓された自宅の奥には高さ約1mの機械があり、旦那さんがせっせと作業をしている。
緑色の小さなプラスチックビーズを機械に投入するとビーズが溶け、型に流し込まれる。
するとみるみる内に、目の前にプラスチック製のキャップが現れた。

プラスティック工場の様子

「キャップに絵柄が入っているでしょう?近所で同じビジネスをやっている人は何人かいるけど、絵柄の入ったキャップを作っているのはうちだけなの。」

嬉しそうに話すヂー・ヂー・ウィンさんだが、彼らのビジネスには欠かせない人物が1人いる。
それが旦那さんの10年来の友人で、特定の店を持たずフリーランスのような形態で働く技術者だ。

その友人は、ヂー・ヂー・ウィンさん夫婦が現在使っている機械を定期的に修理してくれたり、材料の仕入れ先や製品の卸先を紹介してくれたりと、専門知識や人脈の拡大に協力している。

「彼のおかげで競合に差をつけられるし、ビジネスを安定させることができた。」
と夫婦は口をそろえて語っていた。

事業を始めるための知識

続いては、カヤンという街で雑貨屋を営むチョーさん。
ヤンゴン中心部から車で2時間弱いった先にある、農業が盛んな街である。

徒歩圏内に市場がない郊外にある彼女の店には、日常生活に必要なものを求める近所の人々が頻繁に足を運ぶ。

カヤンの雑貨店

チョーさんは6年前にこの雑貨屋を始めたが、当時はまだマイクロファイナンス機関からの融資を受けていなかった彼女にとって、開業資金を集めることは難しかった。

「貯金はあったんです。でもそれだけじゃとても足りなくて…」

困り果てたチョーさんに救いの手を差し伸べたのは、親友と2人の親戚。
彼らから借りたお金と貯金を合わせて、彼女は自分の店を始めることができた。

「昔から親しくしていたので、私が必ず返すだろうと信じてお金を貸してくれたんです。利子はつきましたけど(笑) でも彼らのおかげでお店を始められたから、感謝しています。」

元気に語るチョーさんだが、彼女が借りた合計額は、事業が軌道に乗った現在における1か月の売上額とほぼ同じ。
現在よりも事業規模が小さかったこと、当時まだ娘が学生だったこと、利子がついたことを考慮すると、決して返済は楽でなかったのかもしれない。

②弱くて広いネットワーク

口コミで広がる情報

最後にご紹介するのは、ティン・ティン・チョーさん。
チョーさんと同じカヤンで、小さなミルクティーショップを経営している。
たった2か月半前に開業したばかりの店であるにも関わらず、なんと揚げ菓子の卸先を既に5件獲得しているという。

名物の揚げ菓子

「兄が昔ミルクティーショップで働いていた経験があるので、毎日約200個の揚げ菓子を作ってくれます。50個は自分の店でだして、残りの150個は他のミルクティーショップや、揚げ菓子を売る行商人に卸しています。」

驚いたことに、この卸先を獲得するのにティン・ティン・チョーさん一家は「何もしていない」と語る。

ティン・ティン・チョーさんの母親
共に店を経営するティン・ティン・チョーさんの母親

「うちのお店では揚げ菓子を作れるらしいって噂があっという間に広まったみたいで、彼ら(現在の卸先)の方から頼みにきたの。どこも人手不足だからね、うちから仕入れることができて助かってるみたい。」

小さな街では、「向こうの通りに新しい店ができたらしい」といった噂がすぐに広まる。
このようなローカルな情報は、口コミでこそ得られるもの。
地元に根差したビジネスを行う零細事業家たちにとって、繋がりが弱くとも広いネットワークは重要な情報網だ。

まとめ:人脈から得られる経営資源

自社のキャップを持つヂー・ヂー・ウィンさん

以上のように、零細事業家たちは2種類のネットワークをビジネスに活用している。

親しい友人や親戚との、繋がりが強いが狭いネットワークからは、ビジネスに必要な資金(カネ)・機械(モノ)・専門知識(情報)を得ることができる。

また、隣人などの繋がりが弱いが広いネットワークからは、地域に根差した情報拡散の機会を得ることができる。

ミルクティーショップを営むティン・ティン・チョーさんの例からわかるように、繋がりが弱いネットワークであっても、インフォーマルな零細事業家にとっては欠かせないものである。

たとえ経済的な資本が少なくても、人と人との繋がりは、確実にインフォーマルな零細事業家たちのビジネスの発展に貢献しているのである。

取材協力:MJI Enterprise

 

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