こちらは、今回取材をさせて頂いた、ミャンマーのとあるご家庭の写真だ。
真ん中に座っているお母さん、イーイートゥンさんには一緒に写真に写っている8歳の娘さんの他に、重い障がいをもつ3歳の息子さんがいる。

建設現場で働く旦那さんの収入は、1日に800円。
ギリギリの生活をしている一家だが、つきっきりで息子さんの面倒をみなければいけないお母さんは、家計を助けるために働くことができない。

お母さんは日々どのような生活をおくっているのだろうか。
そして、ミャンマーの社会福祉制度の現状はどのようなものか。
詳しく見ていこう。

障がいを持つ息子と、支える母の生活

息子さんは生後間もない頃に病気にかかり、脊髄を一部摘出したため脳の神経がうまく機能していない。

そのため、息子さんは喋れない。
一人でご飯を食べられない。
一人で座ることもできない。

日本の障害者等級で表すと、

神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの<span class="su-quote-cite"><a href="http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken03/" target="_blank">障害等級表|厚生労働省</a></span>
に当てはまり、身体障害者の第1級に該当するのではないかと思う。

お母さんはつきっきりで息子さんの面倒をみていて、彼を抱きかかえてトイレに連れていき、食事の際は支えながらご飯を口まで運ばないといけない。
つまり、息子さんから目を離せないのだ。

スラムのトイレ
先に見えているのがトイレ。手すりもないこの橋の上を、お母さんは息子さんを抱えて歩かないといけない。

さらに、息子さんが飲む薬は30,000円もする高価な伝統医薬品
購入頻度は2~3か月に1度とはいえ、日収800円の一家にはかなりの負担である。

お母さんが動けているから今はいいけど…

このお母さんの両親は最近、ヤンゴンの隣のエーヤワーディ州から近くに引っ越してきて、上の娘を学校に送ってくれたりと手伝いをしてくれている。

しかし彼らもそれぞれ仕事をしているため、お母さんの代わりに一日中息子さんの面倒をみることはできない。

お母さんが内職するにしても、仕事や家事をしながら息子さんの面倒もみるとなると難しい。

もしお母さんが倒れてしまったらどうなってしまうのか。
もし、工事現場で働く旦那さんがけがをして働けなくなったらどうなってしまうのか。

お母さんやお父さんの身に何かが起これば、娘さんが学ぶことをあきらめて働かなければならないかもしれない。しかし、知識や技術がないので、安い給料の単純労働しかないだろう。

それに親が年老いたら、娘一人で親の生活費と弟の医療費を稼いで、さらに弟の身の回りの世話もしていかなければならないかもしれないのだ。

なぜそうなってしまうのか。

ミャンマーでは、社会制度の近代化により障がい者の権利が保護されているが、それを支えるためのシステム・人材が不足しているのである。

障がい者のための法律は整備されつつある。しかし…

障がい者を取り巻く環境

ミャンマーでは、2015年に「障がい者の権利に関する法律(The Rights of Persons with Disabilities Law)」が制定された。
またNGOとの協同により、障がい者のための寮が完備された学校や、絵画・マッサージなどが学べる職業訓練校が提供されており、彼らに対する教育・雇用支援が行われている。

しかし、それらの学校は都市部に集中している上に、通っているのは勉強ができ、技術を習得できるような”重度ではない”障がい者ばかり。

インタビューした家庭の息子さんのような、自分で身の回りの世話をするのが難しい障がい者が受け入れられる場が非常に少ない。

そもそも障がい者などに対して、日常の基本的動作を介護する、日本でいえば生活支援員にあたる人材を育成する機関がミャンマーにはないため、彼らをサポートするのが難しい。

重度障がい者を介護できる人材がいない現実

また、身体障がい者がひとりで寝たきり状態になったときに頼れる施設もない。

そもそも重度障がい者を介護できる人材がおらず、彼らを受け入れてくれるような施設もないために、家族の責任として彼らは家庭内で育てられている。

だが、生まれた家庭だけの責任として育てていくのは、金銭的な点でも、精神的な点でも、負担がかかりすぎてしまう。

やっぱり政府にお金がないから予算化できない

現状では、保険医療制度の整備、政府の社会福祉に充てられる予算が少ないため、高い薬を買い続けるしかない。
それを支える制度的なサポートもないため、障がい者をもつ家庭の貧困に拍車がかかる。

それが彼らを苦しめているのである。

未来を見据えて

ここまで見てきたように、ミャンマーでは法律で障がい者の権利が守られてはいる一方で、それを実現するシステムが整っていない。特に重度の障がいを持つ人々に関しては、彼らの日常生活をサポートする人材すらおらず、迅速な対応が求められている。

このことは、生まれつき重度の障がいをもった人だけでなく、事故などが原因で人生の半場で障がい者となった人のためにも、不可欠だと強く思う。

先進国より厳しい環境にあるミャンマーの障がい者

社会福祉の整備に時間がかかるにしても、その間、公立病院で医療サービスや薬を無料で提供することはできるのではないだろうか。

そうすれば、今回の家族のように、現在苦労や負担を強いられている人々もお金に少し余裕ができ、選択肢のある、より尊厳のある生活が望めるのではないだろうか。

どんな国や地域でも、どういった障がいを持っていても、他の人と同等の生活をおくる権利はあるはずだと、私は思う。

取材協力:Socio Lite Foundation