「いらっしゃい!」
ここは、ミャンマー最大の都市であるヤンゴンの中心部から、車で約2時間走ったところにあるトングワという小さな街。
炎天下の昼下がり、店に訪れた私たちを元気良く迎え入れてくれたのが、今回取材をさせて頂くティン・ニラ・ウィンさん(上の写真、向かって左側の女性。右側はお友達)。
鮮やかな色合いの服がよく似合う彼女は、照れくさそうな笑顔がとってもチャーミングだ。
バイクや車が通るたびに砂埃がもうもうと舞い上がる田舎道の片隅に、ちょこんと立つ小ぎれいな店が彼女の店。
現在独身であるティンさんは、ここで兄夫婦と同居しながら、小さな雑貨屋を営んでいる。
まだ30歳という彼女。
現在どのような仕事をしているのか。そして、どのような将来の夢を持っているのか。
彼女の「仕事選びの基準」に迫りたい。
目次
この店1つで生活の全てをカバー? ”雑貨屋”という仕事とは
街のあちこちで、人々の生活を支える存在
ティンさんが営む雑貨屋では、食料品を中心に日用品全般が売られている。
ミャンマーをはじめ、東南アジア諸国ではよく見かけるタイプの店だ。
ヤンゴン中心部にはチェーンのスーパーマーケットやコンビニエンスストアが増えつつあるが、ティンさんが住むような田舎町は個人商店が中心。
生活に最低限必要なものがそろう雑貨屋は、その周辺に暮らす人々にとって不可欠な存在だ。
ミャンマーでは、最大都市ヤンゴンを中心にコンビニの店舗数が急増している。ただし外資規制などの影響で、日系を含め外資チェーンの進出はほぼ無く、国内企業が中心。
チェーンと個人商店の違いとしては、①24時間営業、②立地の良さ、③品揃えの豊富さ、④エアコンの設置と商品の品質管理の徹底、などが挙げられる。
コンビニ市場の拡大は、都市部にも多く存在する個人経営の雑貨屋を脅かしつつあるという指摘もある。一方で、この流れが全国に広がるには、もう少し時間がかかるかもしれない。
(参考)
「ミャンマーで勢いづく24時間コンビニエンスストアに押される個人商店」 グローバルニュースアジア
「【飛び立つミャンマー】ヤンゴンのコンビニ競争激化」 SankeiBiz
早速お店に潜入!
では、ティンさんのお店を拝見してみよう。
まず、外観はこんな感じ。
マイクロファイナンスを利用して1年前に開店したこのお店。店内には埃ひとつ落ちていない。今まで入ったローカルショップの中でも、かなり綺麗なお店だ。
ティンさんのご自慢は、このソフトドリンクの種類の豊富さ!
通行人から見えるよう、店先のショーウィンドウにはソフトドリンク各種が陳列されている。このディスプレイに惹かれて、近所の子どもたちがしょっちゅう立ち寄るようだ。
たいていのローカルショップでは、商品をただ単に種類別に並べている。主力商品を決め、それを目立つように工夫して店内のレイアウトを決めているお店は珍しいように感じる。
もう1つの主力商品だというお米も、外の通りからよく見えるように置いてあった。
子どもの他にはどんなお客さんが来るのか聞いてみると、近隣の農家や小作人・縫製工場の労働者・バイクタクシーの運転手がよく来店するという。
朝早く出勤し、夜遅くに帰宅するため市場に行けない彼らを顧客としてとりこめるよう、ティンさんは朝の5時から夜の21時まで店を開けている。
食料品が中心の雑貨屋でありながらガソリンまで販売するこの店には、夜になるとバイクタクシーの運転手が多く来店するようだ。
仕事もプライベートも充実!女性店主の日常に迫る
仕事編
ティンさんは貯金を増やすことを目的に、兄夫婦と1年前にこの店を開業した。元々は、服や調理器具のトレーダーをしていたそうだ。
トレーダーとは、ある市場・業者から仕入れた商品を、他の市場で販売したり、他の店に卸したりする仕事で、仕入額と販売額の差額で収入を得ている。ローカルの市場や個人商店が多いこの国では、ポピュラーな職業だ。
彼女は今でもトレーダーの仕事を続けている。ちなみにお兄さんも、現役の食品トレーダーだ。
お義姉さん(お兄さんのお嫁さん)が仕立て屋の仕事の傍ら、ティンさんと交代で店に立ったり、一緒に仕入れに行ったりしてくれるため、今でもトレーダーの仕事が続けられるのだという。
インタビュー中もよく笑う、明るい性格のティンさん。
仕事で一番楽しいのは、お客さんとのお喋りの時間だそうだ。
毎日立ち寄るような常連さんが15人ほどいるそうで、彼らと互いにからかい合ったり、他愛ないお喋りをしたりするのがとても楽しいという。
「自分が笑えば、お客さんも嬉しくなるでしょ?」と言う彼女は、ひょっとするとトレーダーとして働くよりも、こうしてお店でお客さんとコミュニケーションをとりながら働く方が向いているのかもしれない。
プライベート編
基本的には年中無休だというこの雑貨屋。
「水祭り(4月のミャンマー正月)中も?」と聞くと、
「もちろん!だって稼ぎ時じゃない!」と言ってティンさんはころころと笑った。
そんな仕事熱心なティンさんだが、好きでたまらないものが2つあるという。
1つは、料理。
なんでも、雑貨屋という職種を選んだ理由は、料理をするのに材料を手に入れやすいからとのこと。
「料理は得意よ。何だって作れるんだから!愛情をこめて作るから、皆喜んでくれるの。」
とティンさんは嬉しそうに言った。
もう1つは、服。
既製品の服のトレーダーをしている彼女は、お洒落をするのが大好きだ。
子どもの頃から服が好きで、時間があれば、自分でミャンマーの伝統衣装であるタメイン(ミャンマー人女性が日常的に着用する巻きスカート)を縫うこともあるという。
タメインは既製品も売っているが、通常は自分の身体に合わせてオーダーメイドで作る。大抵の人は布を仕立屋に持って行って縫ってもらうのだが、それをわざわざ自分で縫うというティンさん。ファッションへのこだわりがうかがえた。
年中無休で働く忙しい生活の中で時間を見つけては、料理や服作りなど身近なことを通じて、生活を楽しんでいるようだ。
「好き」×仕事=?
仕事選びの基準とは
ティンさんの話を聴いていると、彼女の仕事は趣味にかなり影響を受けていることが分かる。
トレーダーとして扱うのは料理器具と服。
雑貨屋では主に米や調味料といった食材。
どちらも趣味の料理やファッションに関連したことだ。
小規模なビジネスではあるが、「好き」と仕事を関連させる彼女は、仕事のことを語るときに生き生きとしていて、仕事を楽しんでいるように感じた。
もちろん仕事である以上、楽しいことばかりではないのだろうが、好きなものに囲まれて働く彼女だからこそ、年中無休の営業や店内のレイアウトの工夫といった努力を惜しまずにいられるのだろう。
彼女が掲げる将来の夢
インタビューの最中、彼女に何気なく、今後店に置きたい商品はあるか聞いてみた。
するとティンさんは、
「服屋を開きたいの。」
と、はにかみながらも、しっかりと答えてくれた。
1年後までに、大好きな服のお店を開きたいそうだ。
そのために、収入は無駄遣いせず、現在の雑貨屋の維持・拡大のために使っている。
自分の服を買うのは好きだが、今は我慢しているという。
幸い、現在は経営になんの問題もなく、順調だと語っていた。
彼女はマイクロファイナンスを利用しているため、それも彼女の新しいビジネスを後押ししているのではないだろうか。
まだ30歳の彼女は、「服屋」という夢に向かって、今日も働いている。
まとめ
服と調理器具のトレーダー、雑貨屋、服屋。
ティンさんの選ぶ職種は、全て彼女自身の「好き」がもとになっている。いずれも日常生活の範囲内にあるものだ。
逆に言えば、どれをとっても多くの人が選びやすい職種であると言える。実際に彼女の家の周辺には、似たような雑貨屋が数多く存在する。
また、彼女の家の周辺に住む人々は、服を頻繁に買うほど生活に余裕がある訳でも無さそうだ。彼女自身、服を買いたくても我慢しているのだから。
そう考えると、「身近なもの」「好きなもの」を仕事として選ぶこと自体は、安易だといえるかもしれない。
必ずしも地域住民が必要とするものとは限らないし、競合が多すぎて埋もれてしまう可能性もある。
しかし一方で、ティンさんはソフトドリンクや米の陳列を工夫したり、周辺の労働者の通勤時間に合わせて営業時間を設定したりと、商品の種類や売り方といった点で戦略をたてることで、ビジネスを軌道にのせている。
自分の仕事を好きでいるからこそ、情報を集めたり知識を得たりして、あらゆる工夫を凝らす努力ができるのではないだろうか。
「好き」を仕事にする。
当たり前のようで、意外に難しいことなのかもしれない。
自らの好きなものを追求し夢を追うティンさんの、今後の成功を願っている。
ビジネス:雑貨屋経営
売上:280万チャット(約28万円)/月
利益:40万チャット(約4万円)/月
世帯人数:3人(兄夫妻との同居)
取材協力:MJI Enterprise
日本の方々が、知らない現実を正確に表現して居て、感心して居ます。最近入植(?)した方が、多く語って居ますが、華やかな面ばかりで郊外の一般家庭の紹介を嬉しく思っています。出来れば、地方や特に農家の話をまとめていただけると嬉しいのですが、無理でしょうか?小生言葉の問題と専門分野の違いから詳細を聞きだすことが出来ていません。この国の大多数を占める農民の実態は、あまり紹介されて居ません、例えば、出稼ぎまたは放浪(?)農民などについて皆に紹介していただければ、この国の構造が、もっと良く解る様な気がします。
今後の活躍を期待しております。