以前の記事では、ミャンマーでは働く女性が多い一方、家事・育児を担うのは女性と考えられ、男性の家庭内進出はあまり進んでいないことが街頭インタビューからうかがえた。今回は農村部で、ひとりの働く女性に家事分担について聞いてみた。
商店主の妻と、農業の夫。家事の分担は…?
今回の訪問先は、ヤンゴン市街地から川を挟んで南側に位置するヤンゴン管区コムー郡区。船着き場から車で約1時間の農村にある個人商店である。
商店を営むのはチャット・サンダー・エイさん(31歳)。夫(35)、息子(12)、娘(8)と4人で暮らしている。夫は農業に従事しており、商店はサンダーさんが一人で切り盛りする。
営業時間は朝6時から夜8~9時まで。人々が仕事に出掛ける朝8時ごろと近隣の家庭が夕食の支度をする夕方6時ごろが特に忙しいという。店が忙しい時間帯は、サンダーさんにとっても家事と育児に追われる時間帯である。
「朝食を作っている時にお店が混むと、時々ごはんが柔らかくなってしまうの」
学校に行く子どものお弁当も作らなくてはならず、朝は特に忙しいと話す。
夫は子どもの学校の送り迎えをするが、その他の家事はすべてサンダーさんが担う。
「夫には私の入院中に家事をしてもらいました。それだけで十分。」
実はサンダーさんは昨年、胸のしこりを摘出する大きな手術をしたばかり。インタビューをした時も定期的に病院に通い、日によっては身体の調子が芳しくない。「病院に行くときには、お店を閉めます。夫は(農閑期等で家にいたとしても)商品の値段がわからないから、店番は頼めないし・・・」
入院中は、隣に住むサンダーさんの母親にも子どもの面倒を見てもらっていたそうだ。また最近は娘の首にしこりができてしまい、検査のために一週間学校を休ませた。その時には、サンダーさんの妹が病院に付き添ってくれたという。
サンダーさんの家庭では、夫の家庭内進出はあまり進んでいないようだ。
仕事に家事に忙しいサンダーさん。彼女の救世主とは!?
しかし今、サンダーさんの商店には、経営を支える強力な助っ人が二人いる。一人目は娘のメイ・タジン・ゾーさん。なんと彼女はすべての商品の値段を覚えているという。サンダーさんへのインタビュー中も彼女が代わりに接客し、お釣りを渡していた。
「夫も娘に値段を聞くんです。」
メイ・タジン・ゾーさんに将来の夢を聞いてみると「病気の人を救う医者になりたい」という。サンダーさんも、そんな娘のことが誇らしげだ。
もう一つは日系企業リンクルージョンによる商品配送サービス(※)だ。同サービスを利用する前はバスで往復3時間かけて商品の仕入れに行っていたが、今では携帯電話で注文すると翌日には店に商品が届く。おかげで時間と交通費を節約できるようになった、とサンダーさんは嬉しそうに笑う。
(※)リンクルージョンは、ミャンマーでマイクロファイナンス機関向けに金融システムを開発・提供するほか、農村地域の零細商店や飲食店を対象に、食料品や日用品を配送する流通事業を展開している。自社で運営する倉庫で商品を保管し、サンダーさんら零細事業者が携帯電話で注文した商品を店頭まで毎週配送している。
男女平等ランキングはASEAN最下位。家事の平等な分担への道のりは長そう
男女平等の状況を順位付けした2020年の「ジェンダー・ギャップ指数」報告書(世界経済フォーラム)によると、ミャンマーは世界153か国中114位(ちなみに日本は121位)。ASEAN諸国の中では最下位だった(*1)。
また、2014年の国勢調査では、15~64歳の非労働人口(学生、家事、高齢などを理由に働く意思がない者)において、就労していない理由に家事を挙げた女性は79%、男性は9%だった(*2)。
サンダーさんの家庭は一例だが、各種指標を見ても、ミャンマーでは共働き家庭でもそうでない家庭でも、女性が家事・育児の負担を一方的に受けとめている例が多いようだ。
話し手:チャット・サンダー・エイさん(31歳)
ビジネス:小売店経営・仕立屋
世帯人数:4人(本人・夫・息子・娘)
世帯月収:54万チャット(約38,000円)
(内訳)
小売店経営・仕立屋:30万チャット(約21,000円)
農業:24万チャット(約17,000円)
*1 (出典・参照) World Economic Forum (2019) Global Gender Gap Report 2020
*2 (出典・参照) Department of Population(2017) The 2014 Myanmar Population and Housing Census: Thematic Report on Gender Dimensions: Census Report Volume 4-J(pp.72-85)