ヤンゴン市内からバスで揺られること約3時間。車の台数が徐々に減っていき、その代わりに、同市内では禁止されているバイクに乗って移動する人たちがちらほらと現れてくる。
ミャンマー南部のバゴー管区にあるダイウーという村にやってきた。
かねてからの夢、始めた養鶏ビジネス
今回お話を伺ったのは、村で養鶏場を営むきょうだい二人、
チョーミンミン(50)(写真左)さんとニョーニョーウィン(41)(写真右)さん。
二人はダイウーの村で生まれ、成人してからはお互いに異なる仕事をしてきた。
兄のチョーミンミンさんは、ヤンゴン市内の現地企業でサラリーマンとして働いていた。
一方、妹のニョーニョーウィンさんは村に残り衣服の訪問販売をしていたそう。
そんな二人は昨年2017年の12月、共にこの村で豚を購入し養豚のビジネスを始めることに決めた。
もともと大学で植物学を専攻していたチョーミンミンさん。
いつか故郷の村で農業や家畜業に従事したいというかねてからの願いがあり、ニョーニョーウィンさんが加わって夢が現実した。
早速、家畜用の豚を11匹購入したがビジネスとしてはなかなかうまくいかなかった。
「3ヶ月ごとにしか収入が入ってこないので続けていくことが難しくなってしまってね。毎日安定的に収入を得ることができる鶏に目をつけたんだ。」
そう話すチョーミンミンさんは、2018年4月にマイクロファイナンス機関から借りた100万チャット(約8万円)のローンと貯金を使って220羽の鶏を購入した。1羽あたり約1万チャット(約800円)だった。
成功の秘訣は、誰もやっていないことに果敢に挑戦すること。
実はこれ、かなり思い切った決断だった。鶏を購入するだけで220万チャット(約18万円)、そして養鶏に必要な小屋や餌、薬代でさらに70万チャット(約6万円)が余分にかかる。
初期投資で莫大な資金を必要とし、鶏の病気などのリスクに常にさらされている養鶏ビジネス。
負担が大きいため、ダイウーの村には彼ら以外に同様のビジネスをしている人たちはいないという。
「唯一の競合は卸売業者だけど、それほど心配はしていないわ。彼らの卵はミャンマー北部のシャン州から運んでくるから新鮮じゃないの。村の人たちは安くて新鮮なうちの卵を買ってくれるわ。」
そう語るニョーニョーウィンさん。実際1日に回収が出来る180~200個の卵のうち4分の1程度は近所の人が買いに来て、残りを村の8つの小売店に卸している。卵は毎日完売だそうだ。
月の利益は約21万チャット(約1万7,000円)。
売上は月約65万チャット(約5万円)だが、そこに薬や餌代、そして毎月約10万チャット(約8千円)のマイクロファイナンス機関への返済もある。
「贅沢はできないけど、仕事が楽しいんだ」とチョーミンミンさんは語ってくれた。
< コラム:ミャンマーの鶏卵価格 >
今回訪問したチョーミンミンさんの養鶏場では、小売店への卸売と近所の住民への直接販売を行っている。卸売では卵1つ120チャット(約9.6円)で小売店に販売している。小売店はそこに10チャットを乗せ130チャット(約10.4円)で客に販売する。 |
予想以上にハードな鶏の世話
楽しそうに鶏の世話について話してくれた彼だが、
鶏はとても繊細で、世話は簡単ではないそうだ。
彼らの仕事は朝5時に始まる。
まずは朝ごはんを鶏たちに与え、220羽の糞の色や目の色を確認しながら体調のチェック。午後になると糞の回収、さらに小屋の清掃や一週間ごとに薬を与える業務が加わる。
取材をしたのは雨季の涼しい季節だったため、それほど忙しくなさそうだったが、
暑気の特に気温が高い時期(3月~5月)は40度前後まで上昇することも珍しくない。
この時期には、30分に一度、体調の確認と薬の投与を行い、扇風機やシャワーを用いて小屋の中を涼しくしなければならないという。
「乾季の暑い時期には、こまめに体調をチェックしていないと命取りになる。
常に意識を鶏たちに向けていなくてはいけないから、骨が折れるわ。」
と、ニョーニョーウィンさんは少し困ったように笑った。
養鶏ビジネス拡大を目指して
220羽の鶏の世話をする彼らは今後さらに数を増やしていきたいと話す。
鶏の3分の1の価格で手に入るヒヨコをさらに200羽購入し、大切に育てていくつもりだ。
「商売は順調だよ。需要が多く、オーダーがあっても卵が足りずに提供できないことも多いんだ。ヒヨコを増やすことで、より世話が大変になるのは分かっているんだけどね。
でも、なんて言ったって鶏たちの世話が大好きだし、村人たちに新鮮な卵を届け続けたいんだ。」
誇らしげに笑いながら、二人は語ってくれた。
今日も鶏に愛情をたっぷり注ぎながら、新鮮な卵を村の人々に届ける彼らの挑戦は続いていく。
話し手:チョーミンミン(50歳)ニョーニョーウィン(41歳) ビジネス:養鶏 世帯人数:2人 世帯月収:約21万チャット(約1万7,000円) |
取材協力:MJI Enterprise