女性 ビジネス

「まずは雑貨屋でしょ。家の裏には畑があって、それから鶏もいるし…」
え、一体いくつの仕事を掛け持ちしているの!?

次から次へと仕事を説明してくれているのは、今回訪問した家庭のお母さん。

お母さんが住むのは、ミャンマー最大都市のヤンゴン近郊にあるコンムーという地域。
木や竹でできた家が立ち並ぶ、決して裕福とはいえない家庭が多いエリアだ。

ミャンマー、村の女性
右側が今回取材させて頂くエー・エー・ムーさん。(左側は息子さん。)

どうやらこちらの家庭、複数の仕事を掛け持ちしているらしい。
その数、なんと4つ

一体なぜ、仕事を掛け持ちするのだろうか?
そして、何が彼らを仕事に向かわせるのだろうか?

一家が行う商売の詳細をもとに、その真相に迫りたい。

家族について聞いてみた

いくつもの仕事を掛け持ちしているとは、よほど複雑な家庭事情を抱えているのだろうか?

この家庭は、おじいちゃん(86歳)、お母さん(48歳)、お父さん、長男(22歳)、次男(20歳)の5人家族。
かつては長女もいたが、15歳の時に病気で亡くなってしまったという。

ミャンマー人の家族
左からお母さん、おじいちゃん、次男。

お父さんは小さな会社に勤めており、2人の息子たちは通信制の大学に通っている。

一見したところ、どこにでもいそうな家庭である。
いよいよ、商売の詳細に迫ってみよう。

それぞれのビジネスの実態に迫る!

商売その1:雑貨屋

1つ目のビジネスは、雑貨屋での日用品販売だ。

洗剤、鍋、そしてなんとドライヤーや扇風機といった家電まで売っている。
個人経営の雑貨屋で家電を置いている店はかなり珍しい。

ミャンマーの雑貨屋
黄色い丸で囲まれているのがドライヤー。この他にも扇風機(1台20,000チャット/約2,000円)や、電気で虫を殺すハエ叩きなどを売っている。

この店のポリシーは、村の人が必要とするものは何でも売ること
家電など、値段が高いためにお客さんが一度に全額支払えない商品に関しては、分割払いを受け入れることもあるそうだ。

コラム1: 貧困層とその日稼ぎの生活

日雇い労働者が多い地域では、その日の収入で1日の生活費をまかなう「その日稼ぎ」の家庭が多い。
肉や魚を買う時ですら、日中に購入し、夕方以降に日給を得てから後払いをする、ということがある。

したがって、家電のような高価なものを購入するとなると、毎日もしくは毎週少額ずつ払うことはできても、一度に全額支払うことは難しい。
よって、顧客と店主が顔見知りの場合などは、顧客が支払える額での分割払いを受け入れることもある。

この雑貨屋は、多い時で1か月あたりおよそ600,000チャット(約60,000円)の売上、150,000チャット(約15,000円)の利益をあげるそうだ。

商売その2:養鶏

続いて注目するのは、家の周囲を自由に歩き回っていた鶏たち。

ミャンマー、養鶏

この地域では多くの家庭が市場に卸すための鶏やアヒルを飼っており、この家庭も例外ではない。
鶏を売る相手は、近所の人であったり仲介業者であったりと決まってはいないようだ。

鶏の卸/販売価格は、1羽あたり7,000チャット(約700円)。
年に約10羽を売るこの家庭は、このビジネスから年間70,000チャット(約7,000円)、月収にするとおよそ5,800チャット(約580円)を得ていることになる。

商売その3:農業

家の裏には小さな畑がある。一家はそこで、キンマの葉(噛みタバコの材料)、トマト、ナスを栽培している。
養鶏と同様、キンマの葉の栽培も、収入を得る手段の1つとしてこの地域ではよく見られる。

この畑で栽培を行うのは、雨季(6月から9月頃)の間だけ。それ以外の時期は雨量が少なく、作物が十分に育たないため収穫できないという。

ミャンマーの畑(乾季)
畑。取材当時は乾季だったため、作物の栽培はしていなかった。作業は基本的に家族で行い、繁忙期のみ日雇い労働者を雇う。

この畑で育てたキンマの葉や野菜はヤンゴンにある市場に卸しているが、販売額は年によって差がある。記録を残していないので、昨年の売上はわからないとのことだった。

商売その4:息子による塾

最後は、息子さんが自宅で行う学習塾だ。

ミャンマーでは小学生の頃から毎年進級試験があり、貧困層の家庭の子どもでもチューシンと呼ばれる塾に通うのが一般的である。

しかし都市部から離れたこの地域には、学校はあっても塾は無かった。
そこで息子さんは、自宅で近所の子どもたちに勉強を教え始めたそうだ。

今は5人の生徒を教えており、毎月50,000チャット(約5,000円)を得ている。

一家の月収

ここまで見てきたように、この家族は合計で4つのビジネスを行っている。

それぞれの仕事から得られる収入と、会社員であるお父さんの月収(100,000チャット/約10,000円)を合わせた一覧がこちらだ。

ミャンマーの農村における収入内訳

農業など収入が分からない項目はあるものの、月収は少なくとも300,000チャット(約30,000円)を超えている。

続いて、ミャンマーの世帯所得の分布を見てみよう。

ミャンマーの所得別世帯分布
ミャンマー BOP層実態調査レポート 教育事情」(JETRO・2016年1月)より筆者作成

今回訪問した家庭は、月の世帯所得が201~400USドルのグループに該当する。
JETROによると、このグループの特徴として、必要な家庭消費のための収入はあるが、世帯が必要とする他のものを購入する余分なお金は持っていないという点が挙げられる(1)
この家庭の場合は2人の息子を通信制大学に通わせているので、かなりギリギリの生活をしていると考えられる。

なぜいくつものビジネスを行うのか

今回訪問した家庭に限らず、貧困地域では1つの家庭が複数の商売を行うことは珍しくない
これはミャンマーに限った話ではなく、あらゆる国の小規模ビジネスを行う人々に共通する傾向である。

JICAは「貧困層は、ひとつの生計手段だけで家族が生活していくことが困難なために、可能な限りの多様な手段を通じて、生活の安定化を図る場合が多い。」と述べている。(2)

この家庭の場合、1つ1つのビジネスの規模が小さいことや、農業など気候が理由で仕事ができない時期があることが、仕事を掛け持ちする最大の理由だろう。

このようなビジネス形態は一見効率が悪いように感じるかもしれないが、仮に1つのビジネスに失敗しても他の仕事から収入を得られるといった、リスク分散の効果がある。

おわりに~お母さんの働く原動力~

複数のビジネスを並行して行う一家。
お母さん1人で全ての仕事をしている訳ではないとはいえ、かなり忙しい毎日をおくっている。

では、一体何がお母さんを奮い立たせるのか。
その働く原動力は、お母さんが持つ目標にあった。

ミャンマー人親子の夢
スケッチブックに、お母さんの夢を書いてもらった。

「お店や商売を頑張って大きくして、2人の息子たちに良い教育を受けさせたい。そして良い仕事についてほしい。」

息子たちは通信制大学で一生懸命に勉強する傍ら、奨学金制度などを利用して海外へ飛び出す機会を積極的に探している。
その息子たちの夢をサポートしようという熱意こそが、お母さんの原動力なのだ。

夢を追う息子たち、その息子たちをサポートしようと働く母親。
彼らを見て、自分も目標に向かって頑張ろうと元気づけられた。
彼らのように夢に向かって努力している人たちが、より多くの機会を得られるような社会になってほしい。

ミャンマーの女性
話し手:エー・エー・ムー (48歳)
ビジネス:雑貨屋経営・養鶏・農業
世帯月収:300,000~400,000チャット (約30,000~40,000円)
世帯人数:5人 [父(86歳)・夫(会社員)・長男(22歳/学生)・次男(20歳/学生)]

【参考】
(1) ミャンマー BOP層実態調査レポート 教育事情」JETRO (2016年1月)
(2) 「『貧困削減』 第3章 『貧困削減に対するアプローチ』」JICA ナレッジサイト

取材協力:MJI Enterprise