スラムの水道事情、その核心に迫る
水道の正体を探るため、家の外へ…
「ここよ。」とお母さんが案内してくれたのは、家のすぐ脇にある小道。
え?どこ?
お母さんの後をついていくと…
土管を立てたような、コンクリートの物体に行きついた。
更に近づくと…
おおー!水道だ!!
細いパイプから勢いよく水が流れ出している。濁っていない、綺麗な水だ。
「どのくらい水を使ったかも分かるのよ。」
とお母さんが得意げに指さした先には、小さなメーターがあった。
まさか、メーターまでついているとは…。
驚く私たちに、お母さんは「この水道は新しいからね。1年前にできたばかりなの。」と教えてくれた。
え、たったの1年前?
では、それより前は一体どうやって水を手に入れていたのだろうか。
スラムにおける水の入手方法
水道が出来る前は?
お母さんによると、現在住んでいるスラムに住み始めた当初は、家の近くの地面をなんと自力で(!)掘って井戸を作り、水を得ていたという。
深く掘るほど綺麗な水を得られるが、どうしたらより深く掘れるかの知識も無ければ、地下水を汲み出すためのポンプを持っている訳でも無かったお母さん。
湧き出てきた水は濁っていて、異臭を発していた。
洗濯や水浴びには辛うじて使えても、とても飲める状態では無かったそうだ。
幸い近所にポンプを所有する人がおり、水を分けてもらえるようになった。
その家庭は、近所の家庭に無料で水を譲っていたそうだ。
1年前に起きた大きな変化
変化があったのは1年前。
土地のオーナーが水道の設置を決めたのだ。
オーナーは、ヤンゴンの行政を担うヤンゴン市開発委員会 (YCDC; Yangon City Development Committee) が管轄する上水道の利用を申し込んだ。
設置の際は地域住民もお金を出し合い、今では29世帯がこの水道を使っている。
水はヤンゴン北部にあるダム (Gyo Phyu Dam) からひかれているそうだ。
水道代は利用する世帯で割り勘しており、金額は毎月異なるものの、一世帯あたり大体600~1,000チャット(約60~100円)だという。
ちなみに水道からお母さんの家までは15メートル程度の距離のため、細いパイプが繋がれており、少量の水なら家にいながら手に入れられる。
お母さんいわく、洗濯のように1度にたくさんの水を使う場合は、水道から直接水を汲んで家まで運んでくるという。
その運び方はというと…
使うのはこちらのボトル。
リヤカーでも使うのか、と思いきや…
頭の上に乗せた!
痛くないの?と心配する私たちに、
「布を挟んでいるから痛くはないの。運ぶのは慣れているし、平気よ!」
とお母さんは明るく答えてくれた。
飲み水の入手方法は?
水道からの水を、家事や水浴びに使うというお母さん。
では、飲み水はどうしているのだろうか。
ミャンマーの家庭でしばしば見かけるのは、下の写真のようなボトル入りの飲料水。
この飲料水は、街中の小さな店で浄水・販売されている。
販売は、雑貨屋が請け負っていることもある。
しかしこの家庭では、ボトル入りの飲料水が見当たらない。
そこでお母さんに聞いてみると、飲むための水はこれよ、と土で出来た水瓶を指さしてくれた。ミャンマーの郊外や農村の家庭でよく見かける器だ。
そして、この中に溜めてあるのは、先程見た水道から汲んだ水だという。
果たしてこの水は、飲んでも大丈夫なのだろうか。
「洗濯や食器洗い用の水はタンクに貯まった水を汲んでいるけど、タンクがあまり綺麗じゃなさそうだから、飲むための水はパイプから直接汲んでいるわ。」
何の問題も無い、というように話すお母さん。
確かに、ミャンマーの国勢調査(2014)によると、都市部ですらボトル入りの飲料水を利用している世帯は30%程度。
郊外では、井戸水・水道水を飲む世帯が半数以上、雨水や川・湖・池などの水を飲む世帯が20%以上だ。
しかし日本とは異なり、多くの国では衛生上の理由から水道水は飲まない方が良いとされており、ミャンマーも例外ではない。
次のページでは、ミャンマー全体の水道事情について見てみよう。