貧困層-電気

私がミャンマーのヤンゴンで暮らし始めた4月頃は、停電が毎日のように起きていた。

ミャンマーの電力供給は水力発電が中心であるため、雨がほとんど降らない乾季(11月~翌4月)になると停電が起きやすい。
また、暑さが酷い3~5月もエアコンが多用されるため、電力が不足し、頻繁に停電が発生する。

最高気温が45度近い中での数時間におよぶ停電。うだるような暑さの中で、いつになるか分からない復旧をひたすらに待たねばならず、自分が日頃いかに電気に依存した生活を送っているのかを再認識する。

このように、ミャンマーでは最大都市ヤンゴンですら電力供給が未だ不安定だ。
一方で、貧困地域に至っては、そもそも電気が届いていない家庭も多い。

電気の有無は、人々の生活にどのような影響を及ぼしているのだろうか。
この記事では、電気が届いている貧困層の家庭と、そうでない家庭の両方を取り上げ、それぞれの生活環境の違いに迫りたい。

電気が届いていない貧困層の家庭

まず、公共の電気が届いていない家庭から見てみよう。

電気が届いていないこのお宅には、代わりに充電式バッテリーがある。
延長コードを介して、電灯や扇風機などに繋がっているのをよく目にするこのバッテリー。
私が訪問したときは、携帯の充電のために使われていた。

スラムの家庭とバッテリー
この家庭のお父さんとTOYOバッテリー。1週間に1回、400kyat(約40円)でバッテリーを充電しているそうだ。

「お父さん、その充電器どうやって使うの?」
手に持っているUSBアダプタにつなぐのかと思いきや…

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必殺ダイレクトばさみ!
ランプの点灯が充電中のサインらしい。

電気の通っていない世帯では、この充電器のように、バッテリーから電化製品に向かってコードが延びているのをよく目にする。

また他の家庭では、小さい充電式バッテリーが電灯用に使われ、照明器具へとコードが延びていた。

貧困層-電気
青と白のバッテリーからライトへとコードが延びている。バッテリーは毎日200チャット(約20円)払って充電しているそうだ。
バッテリーを利用して電気を点けた様子。思ったより明るい!

このように、公共の電力サービスがない無電化世帯においても、充電式バッテリーを利用し、意外に多くの人が電気を利用している。

簡易的な発電機(ジェネレーター)を持つ電気屋から線を引いている家庭もある。
(弊社の調査では、無電化世帯においても何らかの電気にアクセスできる世帯は98%にのぼる。またバッテリーを使っている世帯は、平均して月々約4,900チャット(約490円)を充電に支出している。)

ちなみに、無電化地域におけるバッテリーの需要に伴い、バッテリー充電をビジネスにしている人もいる。
充電だけをする業者もあれば、充電だけでなくバッテリーの戸別回収から、充電、配達までする業者もある。

村の充電屋さん。バッテリーが回収され、充電されている

電気が届いている貧困層の家庭

続いて、電気が届いているお宅を見てみよう。
家の外観は、訪問した他の家庭と変わらないが、家の中にはなんだかコードがたくさんある。

コードが繋がる先には、ポストのような木箱があった。

丸で囲まれた、埃を被った木箱。その正体とは…?

その木箱を開けてみると、なんと現れたのは”電気メーター”。

この家庭にはきちんと電気が届いているようだ。

スラムの家庭にある電気メーター
コードが繋がる木箱の中身。これが電気メーターだ。

公共の電気が届いているこの家庭では、利用する電化製品が多種多様。

最初に目に入ったのは、この3つの家電。

①テレビ ②スピーカー ③DVDプレイヤー

さらに冷蔵庫、
スラムの家電

冷蔵庫の上にあるのは電気ケトル、

スラムの家電

炊飯器までもある。

スラムの家電

電気の届いていない家庭のキッチン(写真下)と比較すれば、電気1つがどれだけ暮らしに影響を与えているかがわかる。

貧困層-キッチン

電気が通っている家庭と違い、コード類は一切なく、もちろん冷蔵庫や炊飯器もない。
調理に不可欠なもの(薪コンロや鍋、フライパンなど)だけが置かれている。

無電化世帯と最近の取り組み

さて、現在、ミャンマーにはどれくらいの無電化世帯(公共の電力を利用できない世帯)が存在するのだろうか。
ミャンマーの国勢調査(2014年)によると、無電化世帯は67.6%。大半の人々が公共の電力を利用できない状態にある。

しかし、ここ最近、公共の電力網が整備されていない地域において、民間企業による新しい動きが見られる。

例えば、現地大手企業ヨマ・ストラテジック・ホールディングスはノルウェーの政府系ファンドと合弁企業を設立し、無電化地域におけるミニ電力網の構築に取り組む。
ミニ電力網とは、村単位で発電拠点や送配電設備を整備し、電力供給を可能にする仕組みであり、ミャンマー北部のザガイン管区の10か所程度で、実証プロジェクトが開始される予定である。

この取り組みの優れた点は、発電施設の管内に最低1ヶ所、携帯電話の基地局を設けると決めたこと。
農村地域の住人だけを顧客にするのではなく、資金力のある事業者を顧客とすることで、収益性を確保し、事業を持続可能なものにすることができるのだ。
この持続性が電力の安定供給につながる。

このミニ電力網は、公共の電力網が整備されるまでの代替策として、注目を集めている。

おわりに

ミャンマーにおいて、公共の電力が普及していない世帯は未だに多い。
だが、民間企業の取り組みに加え、ミャンマー政府によって2030年までに電化率100%を達成するという目標が打ち出された。

国を挙げて、ミャンマー全土に公共の電力を普及させようという動きだ。
経済発展に伴い、インフラ整備が緊急の課題と位置付けられているからである。

電化率100%が達成されても、需要の急増によって今以上に停電が起こる可能性もあり、発電量の改善も必要だ。
今後、電化率と発電量がともに改善され、電力が安定供給されるか注目していきたい。

 

【参考文献】
・THE REPUBLIC OF THE UNION OF MYANMAR Myanmar Population and Housing Census
Highlights of the Main Results Census Report Volume 2 – A
・日経産業新聞 2017年7月21日 ミャンマーでミニ電力網 地元大手主導、国の送電網に頼らず

取材協力:Socio Lite Foundation