自転車

ヤンゴンから北東に車で2時間ほど行ったところに、バゴーという地方都市がある。活気ある大通りからバイクでぬかるんだ細道を何本か抜けた先、川沿いの小さな家がニー・ニー・エイさん(43)の仕事場だ。木の柱にトタン屋根、簡素な作りの仕事場には、にぶく光る銀色の自転車が天井まで積み上げられている。

天井まで積み上げられた大量の自転車

ニー・ニー・エイさんの仕事は中古自転車の修理・販売だ。旦那さん・親戚をふくめ総勢8名で、日本や中国などから輸入中古自転車を仕入れ、整備して近隣の販売店に卸している。

かき入れどきは5月

「事業は好調だと思うわ。今の時期は特に売り上げが伸びるの。ミャンマーでは6月に学校が始まるから、5月は新学期に備えて学生たちが自転車をよく買うのよ」

農村部では家から学校まで離れていることも多く、子どもたちは1時間以上歩かなければならないこともあるという。学生にとって、自転車は生活に欠かせない大切な足だ。

2019年6月には、ミャンマー人起業家マイク・タン・トゥン・ウィン氏がシンガポールなどで事業撤退したシェアバイク会社から中古自転車を買い取り、ミャンマーの貧困地域の学生に寄付したことが話題になった。中国や東南アジア各国で、シェア自転車ビジネスの苛烈な競争と供給過多によって大量の廃棄自転車が生まれている。

ニー・ニー・エイさんが仕入れている自転車にも、そんな廃棄自転車が紛れているかもしれない。

高品質と低価格を両立

事業開始は3年前。自転車修理の店で働いていた夫が独立して家の近くに仕事場を構えた。始めたばかりの頃は3店舗だった取引先は、いまや7店舗まで増えた。1店舗ごとの注文数も順調に増えているという。

「今までほかの業者から買っていた販売店さんがうちに乗り換えることもあるの。質のよさと価格の安さが成功の秘訣だと思うわ」

自分の仕事に自信を持っていると語るニー・ニー・エイさんの顔は誇らしげだ。

中古自転車の整備は重労働だ。
仕入れた自転車は一度すべての部品を分解し、ゴミや汚れを取り除いてきれいする。故障があればヤンゴン市内まで出向いて部品を購入し修理する。
フレームはペンキを塗り、乾かす。

ペンキが塗り直された自転車のフレーム

雨季は湿度も高いので、ペンキがなかなか乾かない。そういうときはガスボンベにソケットをつけたお手製のバーナーで表面をあぶるのだという。

「大変だけど、こうするのが一番いいのよ」
クオリティへのこだわりは人一倍だ。

家族のため、抱く夢

輸入中古自転車の仕入値は一台30,000〜35,000チャット(約2,100〜2,450円)ほど。整備し、新品同様に磨き上げたピカピカの自転車は、一台43,000チャット(約3,440円)で販売する。従業員の給与や部品代・運送費などを差し引くと、一台当たりの利益は2,000チャット(約140円)前後だという。

「なんといってもお金のやりくりが一番大変ね。寝ても覚めても毎日そのことばっかり考えてるわ」

けらけらと明るく笑うニー・ニー・エイさんだが、懐事情はまだまだ厳しい。手元にお金がないために十分な台数の自転車を仕入れられないこともあるという。

「このビジネスをもっともっと大きくしていきたいの」

二番目の娘は今年で高校を卒業する。医者かエンジニアになりたいと語る彼女を大学に行かせてあげることが、ニー・ニー・エイさんの今の目標だ。

話し手 :ニー・ニー・エイさん(43歳)
ビジネス:中古自転車の修理・販売
世帯人数:5人(本人、父、夫、娘二人)
世帯月収:63万チャット(約4万4,000円)
(内訳)
中古自転車の修理・販売での利益:50万チャット(約3万5,000円)
靴の販売店で働く長女の収入:13万チャット(約9,000円)

【参考】

(1)AFP BB News 『もう2時間歩かなくてもいい! シェア自転車を通学に再利用 ミャンマー』

取材協力:MJI Enterprise

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