ミャンマーのトイレ

今まで取材を通じて、何度かスラムのトイレを見る機会があった。

しかし、ミャンマー人が“きれい好き”だからなのか、どこの家も臭いを気にして蓋が閉まっており、中身を見せていただくことが難しかった。
「トイレの蓋、開けて!」その一言がいいづらかった。

“用を済ませたその中身、それがそこに溜まっているのか、それともどこかへ流れるのか”
これが私の疑問だった。

そして今回、ついにそのチャンスを掴んだのである。

スラムの家庭の様子

今回取材をさせていただいたのは、こちらのおうち。

スラムの家
オレンジ色の丸で囲まれた、人がいるあたりが家の玄関である。

スラムのトイレ

後ろを振り返ると、正面の道路から竹の橋の上をかなり歩いてきたことがわかる。
スラムの子ども ふと横を見れば、隣の家の子ども達が不思議そうに私たちの方を見ていた。
スラムの家庭こちらが今回取材をさせていただいたお母さん(44歳)とその娘(12歳、学生)。
写真に写っている2人以外には、お父さんと14歳の娘がいる。4人家族だ。

お母さんは空芯菜を自分の畑で育てて、マーケットで売っている。
そしてお父さんは土木建設の仕事をしている。
長女も小学校卒業後、お父さんとは違う土木現場で働いているそうだ。
2人とも、建設会社の社員という訳ではなく、日雇いで働いている。

家はすべて竹でできており、床の隙間からは水が見える。
雨季になると水位があがり、家の中まで浸水することもあるという。

スラムの家インフラに関して言えば、この地域には水も電気も届いていない。
そのため電気については、バッテリーの充電配達サービスを利用している家庭が多い。
朝の9時にバッテリーの回収者が来て、昼間に充電して夕方の5時に届けてくれるサービスがあるという。

スラムの電気
お母さんが手にしているもの(天井から下がっている青と白の箱状のもの)がバッテリーだ。1回の充電につき、200チャット(20円)がかかる。

いよいよトイレへ向かう

「お母さん、ちょっとトイレ見せてもらっても大丈夫?」
「いいわよ、こっちこっち!」
ここまではいつも順調。

スラムのトイレへの道おっと?かなり奥まで続く様子だ。
一体トイレはどこにあるんだ?
とりあえず矢印の先の光が差し込むあたりまで進んでみる。

自分たちの家、その奥に親戚の家、そしてその先にトイレといった構造らしい。
トイレは親戚と共同で使っているようだ。

スラムのトイレへの道
橋の先にある小さな小屋がトイレである。

親戚の家を超え、暗闇の先にあったのは、4本の竹でできた道。
この先に見えるのがトイレだ。

下は濁った水…あ~怖い。
でもこれを渡らないと、トイレが見られない!うぅ~…。

ついに到着!

やっとのことでトイレにたどり着いた。
恐る恐る中を覗き込むと…

スラムのトイレ蓋がない!そして予想を超えるきれいさだ!

横にはお尻を水で洗うためのバケツが備え付けられている。

スラムのトイレ
水瓶とバケツの中に水がためてある。

トイレットペーパーを使わずに、用を済ませた後に手でお尻をお水で洗うのが一般的だ。
中には石鹸を使う人もいる。東南アジアではよく見る光景である。

トイレの構造を見てみよう

トイレの下を覗くと、トイレの構造がよく見える。
スラムのトイレ…どうやら用を足したものは、すべて下に流れるという、とてもシンプルな仕組みらしい。

スラムのトイレの構造

下がぶくぶくしてるぞ…。何が発酵しているんだ…うわぁぁぁぁ…。

ふと横をみると、隣の家も同じ仕組みになっていることがわかる。スラムのトイレ

…ん?待てよ?この水って・・・
(筆者は気が付いてしまった。)

写真からもわかるように、この辺一体のスラム街はすべて水の上にある。
そしてトイレも水の上にあり、すべて下に流れる仕組みになっている。

もはやトイレの上に住んでいるようなものなのか?
…絶対に落ちてはならない、そういうことだ。
これで雨季に水位が上がって、家の中に浸水するとしたら…ああ恐ろしい。
水たまりに囲まれるスラムの家庭

水たまりに囲まれるスラムの家庭

しかもすぐ横を見れば…

スラムの畑マーケットで売るために育てているという空芯菜の畑があるではないか!
この水は果たして大丈夫なのか?

それだけではない。
家周辺の水は、ゴミだらけだ。
スラムのゴミ このゴミは自分たちで捨てたのかと尋ねたところ、
「別の場所から流れてきた。」
という答えが返ってきた。

ミャンマー、スラム以外のトイレは?

日本のトイレとの違い

ここで、スラム以外のトイレについても見てみよう。
ミャンマー全体に共通する日本とのトイレの違いには、以下のようなものがある。

  • 基本的にトイレットペーパーはない。
    (ただし最近では、外国人が利用するような巨大ショッピングセンターのトイレには備え付けられている。使用後は流すのではなく、ゴミ箱に捨てる。)
  • ウォシュレットの形が違う。
    (そのため、よく便座が水で濡れている。)

では、もう少しローカルなトイレはどうなっているだろうか。

大学のトイレ

ヤンゴン大学、女子寮のトイレヤンゴン大学内の女子寮のトイレ。
ちなみに、筆者はここに初めての日本人として暮らしている。
ローカルレベルにしては、めずらしく洋式で、きれい…なのではないか。
(なぜ便座がこんなにも茶色いのかは未だに謎。)

ウォシュレットはあるが、やはりトイレットペーパーはホルダーだけでティッシュはない。
水を流そうとしても流れないときがほとんどで、バケツに水を汲み、自分で流さなければならない。

一般家庭のトイレ

ミャンマー、一般家庭のトイレミャンマー人の友達の家のトイレ。
こちらもトイレットペーパーは無く、手前のピンクの桶から水を汲んで手動で流す。

ちなみに、巨大ショッピングモールや空港の国際線ロビー、3つ星・4つ星のホテルのトイレになると、日本のものとそう変わらない。
これらがおそらくミャンマーで最高レベルの綺麗さだ。

スラムでは下水道が整備されていない

スラムとそれ以外のトイレの最大の違いは、下水道設備があるかどうかだ。
スラムのトイレでは下水道設備がなく、用を足したものはそのまま下に落ちるだけだ。

落ちた先の水は、自分たちの家の下の水ともつながっており、雨季にはその水が家の中を浸す。

またその水は、家のすぐ横にある畑に繋がっている。
その畑で育てた野菜は、自分たちが食べたり、マーケットで販売したりする。

マーケットで野菜を買うのは貧困層だけではない。
それを買って食べる人たちの身体にまで影響が出るだろう。

もしかしたら自分たちの食べているものが、トイレと同じ水で育てられているかもしれないと想像すれば、彼らの衛生に関する意識の向上が、いかに重要であるかを理解できる。

取材協力:Socio Lite Foundation