ミャンマーで一番広く使われている言語をご存知だろうか。
正解は「ビルマ(ミャンマー)語」である。
しかし、これはあくまで公用語として使われている言語にすぎない。
多民族国家であるミャンマーには、ビルマ語以外にも多数の言語が存在する。
ビルマ語を母語としない人々は、それぞれの民族の言語を使って生活している訳だが、違う民族出身の人同士で話すときや、公式の場ではビルマ語を使う。
教育現場でもビルマ語が用いられており、少数民族出身の子どもたちは母国語以外の言語で教育を受けている。
今回は、このような言語の多様性が教育に及ぼす影響について見ていきたい。
ミャンマーにおける言語の多様性
これは、ミャンマーで使用されている言語の分布図だ。
135種もの民族で構成されるミャンマーには、40を超える言語が存在する。
上記の地図では、濃いオレンジ色がビルマ語(Bamar)を第一言語とする地域を示している。
ビルマ語は多数派であるビルマ族の母語ではあるが、地図で濃いオレンジ色が占めている面積は約半分。
しかも、同じビルマ族同士でさえも、地方によって訛りや方言が異なるため、コミュニケーションをとるのが難しいことがある。
一方ビルマ族以外の民族は、独自の少数言語を使っている。
それは方言などとは違い、挨拶の表現から異なる全くもって別の言語だ。
例えば、ビルマ語で「こんにちは」は「ミンガラーバ」と言う。
同じ「こんにちは」という表現1つをとっても、モン族の言葉では「マンゴーラオー」、シャン族の言葉では「マイスンカー」となる。
上記の地図に示されているのは大枠としての言語グループであり、実際にはもっと多くの少数言語が存在している。
ビルマ語圏以外に住む人々は、公用語であるビルマ語以外の言語を使って生活しているのである。
進級制度・カリキュラムと言語の関連性
進級制度
続いて、ミャンマーの教育制度について見てみよう。
ミャンマーでは、2016年度より新しい基礎教育制度が始まり、小・中・高は6・4・2の12年制となった。
年度初め月の6月までに満5歳になる者は、就学前教育としての幼稚園に通い、小学校に向けた準備をする。
日本とは違って毎年進級試験があり、学力が基準に達していない場合は小学生であっても留年してしまうため、子どもたちの多くは放課後に塾に通い、一生懸命に勉強している。 (ミャンマーの塾についてはコチラ)
カリキュラム
- 国語
- 数学
- 英語
- 宗教
- 音楽など副科目
これは小学校1年次のカリキュラムだ。
一見何も問題がなさそうに見える5科目だが、ミャンマーが多民族国家であることを加味して、少し考えてみよう。
まず英語の授業では、私たちが日本の学校で学んできたのと同様に、英文法を学ぶ。
日本では現在、小学校5年生(11歳)から英語を習い始めるが、ミャンマーではそれを1年生、つまり6歳から始める。
では、国語の授業はどうだろうか。私たちにとっての国語の授業は、日本語の読解や読み書きを学ぶ授業である。
ではミャンマー人にとっての国語の授業とは何か。それはビルマ語の読解や読み書きを習う授業だ。
ビルマ族以外の心境を考えてみる
日常生活において、ビルマ族以外の人々は、会話でも読み書きでもビルマ語とは異なる言語を使っている。
にも関わらず、英語とビルマ語という新たな2言語を、日常使用していないビルマ語で習うのである。
もちろんほかの教科の教科書も、テストもすべてビルマ語。0から学び始める言語で、同時に様々な科目を勉強しなくてはならない。
学校内での友人との会話も、違う民族出身であればビルマ語を使う必要がある。
さらに中学校からは、数学・経済・物理・科学ですべて英語の教科書が用いられ、テストにも英語で解答するようになる。
つまり、少数民族出身の学生は、母国語でないビルマ語と英語の2つをマスターした上で、他の教科も勉強する必要がある。
先述の通り小学生の頃から毎年進級試験があるミャンマー。
少数民族出身の学生にとっては、言語のハンデがあるため、ますます負担が大きい。
ミャンマーに限らず、異なる言語を使う民族が共存する国家では、誰もが日本語を使う日本では考えられないような問題が存在するのである。
まとめ;言語の多様性と教育
あらゆる民族が住み、複数の言語が存在するミャンマー。
かつての軍事政権は、多数派であるビルマ族への同化政策を実施し、少数民族言語による教育を制限していた。
しかし民主化以降は、ミャンマー情報省が少数民族言語による出版を奨励・支援する姿勢を見せるなど、民族融和に向け前進しつつある。
今後、少数民族の子どもたちの教育環境が、少しでも良くなることを願っている。
【参考】
「諸外国・地域の学校情報|ミャンマー」外務省
「BOP層実態調査レポート 教育事情|ミャンマー」JETRO(2016)
「国の歴史と教育問題|ミャンマー」シャンティ国際ボランティア会
「第7章 ミャンマー軍政の教育政策」『ミャンマー政治の実像:軍政23年の功罪と新政権のゆくえ』(2012) 日本貿易振興機構アジア経済研究所 増田知子