鉄を打つ親子
親子の連係プレーは見る者をとりこにする。

ミャンマーの最大都市ヤンゴンからバスで揺られること2時間、東部の中心都市バゴーの都市部に、何世代も続く鍛冶屋がいる。鉄を打つ音がトンカントンカンと小気味良く響く工場を訪ねた。

聞くところによればこの鍛冶屋、車で何時間も離れた街からも商品を求める客が訪れるという。かつて、日本でも町や村に一つはあったという鍛冶屋、ミャンマーではどのように息づいているのだろうか。

ミャンマーの鍛冶屋は何をしているの?

鍛冶屋「ウ・ミエイと息子たち」を営んでいるのは、親方のミエイさん(52)と、2人の若い息子たち。ほかにも2名の従業員を雇い、2台の鍛冶炉を動かしている。

家族写真
鍛冶炉の前で笑うミエイさん(左端)とその家族。二人の息子は18歳と16歳。

製品の材料は廃棄された自動車から出るくず鉄。買い取ったそのくず鉄を、牛に引かせる耕運機のブレード、ナイフ、斧、さらには住宅の門などに加工し、農民や卸売業者に売っている。

材料の鉄と加工した製品
左右の鉄の塊を延ばして磨き、中心の斧の部品に仕上げる。

息子は、すすで黒ずんだレンガの鍛冶炉に、手動のふいごで風を送り込む。積み上げた木炭は赤い火を噴き上げ、その高温の炎で焼かれた黒ずんだ鉄板は、オレンジ色に変わっていく。
ミエイさんはそれを巨大な金属のはさみでつかみ、台に置く。
ミエイさんと息子が阿吽の呼吸でハンマーを打ち下ろすと、くず鉄は立派な刃に生まれ変わっていった。

日本でもかつて農具や包丁などを作る野鍛冶、農鍛冶と呼ばれる鍛冶屋がいたが、ここミャンマーでは、まだまだ現役だ。

ふいごで空気を送る
中心で炎を上げる台が鉄を加工しやすくするための鍛冶炉。写真左端のふいごで炉に空気を送り込む。

注文の大部分を占めるのが、牛に引かせて使う伝統的な耕運機。
普段は、鉄のブレード部分だけを作り、業者に卸している。しかし、農業が準備段階に入る4月から8月の間は、各農家からの特注を受けて耕運機をまるごと作ってしまう。

耕運機
耕運機。4月から8月の間に20~30本ほど仕上げる。販売価格は220,000チャット(約18,000円)。

ミエイさんの作る耕運機は、根強い人気があり、地元バゴーの農民はほとんどミエイさんの製品を使っているそうだ。

お得意さんは離さない

ミエイさんの人気は地元バゴーに留まらない。バゴーを離れてしまったお得意さんも、ヤンゴンやタウングー、ピー、エーヤワディーなどから遠路はるばる訪れ、ミエイさんの鉄製品をまとめ買いする。ヤンゴン、タウングーから車で2時間強、エーヤワディーは5時間弱、ピーは6時間以上かかるという。

ミエイさんの製品がこれほど顧客の心とらえるのはなぜだろうか。

人気の秘密は?

ひとつのポイントは、ミエイさんと顧客の信頼関係。耕運機のブレードには一枚一枚にミエイさんの名前が彫ってあり、製品の質を保障している。ミエイ・ブランドなら、アフターサービスも充実だ。壊れたり切れ味が悪くなったりした農具も、工場に持ち込めば蘇る。もちろん、鉄加工の実力にも定評がある。

14歳から父の手伝いをはじめ、後を継いで24年。「稼げているのは、長年培った俺の腕があるからだ」と、誇らしげな顔を見せた。

ミエイさんの名前入り耕運機ブレ―ド
中央にあるミエイさんの名前が彫られた耕運機のブレード(赤い丸で囲った部分)。

輸入品にも負けない鍛冶屋さん

気になるのが、最近中国や日本から流入する農業機械。実際、ミャンマー商務省は2017年11月、農業機械などの輸入販売を一部自由化すると発表するなど、市場環境は変わりつつある。ミエイさんの鍛冶場に影響はないのだろうか。

「特に問題はないね」と断言するミエイさん。確かに、2年ほど前から外国製品が商売敵になってきたというが、「エンジンで動く外国の耕運機は土をダメにするから人気がないんだ。それに、若い芽を切り取ってしまう」という。

この話の真偽のほどは不明だが、牛と共に耕運機を使って農業を営む伝統的な農家は、ミャンマーではまだ健在なのだ。「なじみの客が買ってくれるからね」とミエイさんは余裕の表情を浮かべる。

販路の拡大も忘れない

とはいえ、昔ながらの手法のみに固執しているわけではない。
例えば、ドリルを購入し、斧の加工を効率化。また、溶接機も2台仕入れ、火花を散らしながら三輪バイクの荷台を組み立てている。資金は、毎年数万円をマイクロファイナンスで借りて調達。新しい技術にも臆せず投資した結果、多様な商品を販売できるようになった。返済も順調ということだ。

溶接する息子
三輪バイクの荷台を溶接するミエイさんの息子。

豊かになっても職人魂は失わない

最後に、居住空間を見せてもらった。
月収は、ミャンマーでは裕福な方の1,000,000チャット(約82,000円)というから、立派な内装を予想していた。しかし、壁と床は木の板を並べただけ、天井はトタンで覆っている質素なつくりだ。

家の様子
2階が居住空間になっている。屋根がトタンなので、室内に熱がこもりやすい。

よく見るとエアコンも扇風機もなく、「コンクリートの家が欲しいわ。夜は暑くて眠れないのよ」と苦笑するお母さん。

収入のうち相当の部分を仕事につぎ込んでいる、とミエイさんは話す。代々鉄を打ち続けてきた昔ながらの鍛冶屋が、時代が変わっても顧客に愛され続ける秘密は、その職人気質にあるようだ。

ミエイさん

話し手:ミエイ(52歳)
ビジネス:鍛冶
世帯人数:6人 (父・母・子ども4人)
世帯月収:約100万チャット(約82,000円)
(内訳)
鍛冶屋利益:約88万チャット(約72,000円)
お母さんのタバコ加工の内職:約12万チャット(約10,000円)

【参考】
Ministry relaxes import rules for over 250 items」ミャンマータイムズ

取材協力:MJI Enterprise

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茂野 新太
千葉県出身。京都大学法学部に在籍。現在はミャンマー・ヤンゴンの編集プロダクションに長期インターン中。将来の夢、新聞記者を目指して日々奮闘するかたわら、ミャンマーを舞台にしたドキュメンタリー映画を撮影しています。

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